今日は患者として過ごした20数年間、医師としての10年間を経て築いた思いの丈をぶつけ、患者さんを勇気付けられたらと思います。
現在、0歳と1歳の息子を子育て中で、なかなかジムに行けない日々ですが、筋トレを頑張ってボディビルを続けています。
患者としての私
小学校低学年でアトピーが急激に発症しました。赤い顔を写真に撮られるのが嫌で、写真はほとんど残っていません。大人になって振り返ると、極端に写真を避けていた自分に気付きました。当時の心理状態を思い出すのも辛いのですが、顔の赤みや額のしわを隠すために前髪を深く下ろしていました。母と姉以外の女性とは目を合わせられず、店員とさえまともに会話できなかったです。目のまわりがむくみ、目つきも鋭く、嫌なあだ名をつけらたこともあります。肌にも世の中にも怒りを感じ、自分に自信がもてない少年期を過ごしました。
麻酔科医の父に「イソジン風呂で治る」と言われ試したり、民間療法や、“ドクターショッピング”も経験しました。その中で、初めてていねいに話を聞いてくれる開業皮膚科医と出会ったことが転機となり、外用治療を真面目に継続するようになりました。
年齢とともに自然軽快も重なって、人前で話せる自分を少しずつ取り戻しました。現在はステロイドとプロトピックを毎日欠かさず塗布し、飲酒でかゆみが強まる日は「その夜こそしっかり塗って寝る」を大切にコントロールしています。見られていない背中は荒れてしまうという、患者にありがちな状態も抱えつつ、顔と首にはしっかり塗って良好な皮膚を保ち、医師として患者への説得力を高めています。
医者としての私
外来は忙しく、3分診療と揶揄されることもありますが、ジャックナイフのような目をした少年が来るとスイッチが入ります。
初診をとくに大切にし、15~30分を確保して説明します。プロアクティブ療法や外用薬の種類、強さ、部位別の使い分けを、自作の図を使って説明します。このようにして患者が“理論武装”できる土台を整えれば、次回以降に患者が「これを試したい」と提案してきた時に、妥当なら快く処方することができます。初診で信頼関係を築くことを何より重視しています。
また、私にとって倫理観の核心は「この病気、治りますか?」への答え方です。かつて自分が患者として受診した際「治りません。この薬を塗ってください」と突き放され、涙した経験から、同じ言葉を絶対に使うまいと心に誓いました。医学部時代から倫理を学ぶことも意識してきました。
ガイドラインには「症状がないか軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態を目標とする」と記載されています。これを私は、患者に届く言葉へ変えます。私は「治ります」とまず明言します。患者は「治ります」と言ってほしいのです。そして、「治療に取り組む時だけアトピーを思い出し、それ以外の時間はアトピーのことを忘れて、明るく笑って過ごしてください。それが私のゴールです」と伝えています。治ると言ってもらえたら、患者としてはすごく嬉しいからです。
医師/患者からのアドバイス
受診する際は、ぜひ「通いたい」と思える医師を探してください。都市部は選択肢が多い一方、地域によっては医療機関が限られる現実もあります。だからこそ患者側も基礎知識を備え、患者会や勉強会で情報を得て理論武装し、医師と対立するのではなく提案し合い、ウインウインの関係を築くことが大切です。
そして、何よりいちばん伝えたいことは、アトピー性皮膚炎に人生の主導権を握らせないでほしいということです。今は、僕も絶対に握られないぞと思って生きています。
「たかがアトピー」くらいに思ってほしい。医師としては口にできない言葉ですが、患者としてあえて伝えます。常に皮膚の赤みや額のしわに悩んで過ごしてほしくない。私自身も皮膚の状態に悩み、恋愛にも会話にも自信がなかった時期もありました。しかし、毎日しっかり塗ることを重ね、人生経験を積んで、今ではステージ上で堂々とポージングができるようになりました。ボディビルは好きですが、皮膚科医として皮疹が良い状態でビルダーパンツを履いてステージに立つことは僕のライフワークです。かつての自分のように絶望している人たちを、診察室の外でも勇気付けられる活動だと思い選びました。これからも、ボディビルも、皮膚科医としても、頑張っていきたいと思います。
(2025年6月8日 日本アレルギー友の会講演会より、採録 小平)
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