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  • 600号特別記念号
  •  本会が50年以上の伝統をもち、一貫して患者さんのための活動を継続してこられたことに敬意を表します。このたび坂本芳雄先生から常任顧問就任の依頼をいただき、お受けすることにいたしました。

     私自身は、どちらかというと機転のきかないほうであり、学会発表をしている時も知らない質問がきたらどうしようと思ってちょっとドキドキします。アドリブが苦手でご迷惑をおかけすることもあろうと思いますが、丁々発止の議論が上手な坂本先生、江藤先生のお荷物にならないよう努めていきたいと考えています。

     出身はど田舎であり、小学校の時は友達の家に行くと、隣の小屋で牛や豚を飼っていたりして、懐かしいにおいを感じつつ遊んでいました。衛生仮説でいうところのエンドトキシンたっぷりの環境で育ったためか、アレルギーの持病はありません。

     大学の軟式テニス部OBに大田健先生がおられ、東大物療内科研修医の時にも大田先生には指導医をしていただきました。当時とくに印象深いのは重症ぜんそくで入院してこられた方でした。今とは異なり、力価の強い吸入ステロイド薬はなく、抗ロイコトリエン薬もなく、きめ細かく気管支拡張薬を使うやり方で治療しましたが、なかなか落ち着かせることができませんでした。いろいろなぜんそく薬の名前と効果の現れ方や、発作では身動きが全くできず点滴のため手指をわずかに動かすだけで呼吸困難が強まることを患者さんから教えていただきました。会話の中で「さるた」と言われて何だかわからず聞いてみると、即効性の気管支拡張薬のことでした。

     少し良くなってきたかなという時期に、病棟の消毒掃除の日がやってきました。それを察知した患者さんが「消毒のにおいで悪くなってしまうわよ」と言いながら作業の前に退院していきましたが、病棟を前屈みでゆっくりと歩いて退院する後ろ姿を覚えています。これは昭和の終わり頃の話ですが、現在は驚くほどに治療が進歩しています。

     東大物療内科に入ってからは、宮本昭正先生、伊藤幸治先生、大田先生、森田寛先生、坂本先生をはじめとする先輩の先生方の薫陶を受けてきました。

     私の身内には医者がいませんが、以前に母親を看病し放射線治療を間近で見ていた経験から、医師像としては「あらゆる治療を動員して病気と戦う医師」ではなく、「病気の人に対してちょうど適した治療を行う医師、そして行う治療が将来の新規治療を妨げないようなふるまい」が理想と考えています。今だと個別化医療という言葉が近い感じです。

     今までのぜんそくやアレルギーの診療を通じて、東大物療内科では経験と耳学問により守備範囲を広げていく姿勢、東大アレルギー・リウマチ内科では患者さんの臨床像を解きほぐし深める姿勢、帝京大学板橋病院でさまざまなアレルギーを受け止めてきた中では守備範囲をさらに広げつつ深める姿勢を学びました。最近の若い医師はお行儀が良くて先輩医師の診療技術を盗むことはあまりしないようですので、臨床報告を書かせて尻をたたくことで技能を高めるのが近道だということも知りました。現在の勤務先(千葉県市原市)に来て1年半ほどですが、アレルギーの患者さんが来たら受け入れて診ていきたい、地域のアレルギー診療を充実させたいと考えています。

     ここまで書いてきて、自分のこと、医師の診療のことばかりなのに気付きました。患者さんが必要としている情報を届けるのが重要なのはもちろんですが、その情報に触れる医師の側が自分の守備範囲を固めずに広げていこうとする柔軟さと好奇心を持ち合わせることも良質のアレルギー診療体制、患者と医師との関係につながると日頃から感じています。

     ここ2年近くは新型コロナウイルス感染症に振り回されて大変な毎日をみなさん送っておられるはず。私が担当している呼吸器内科は小規模で、常勤者は合計3名だけです。科の診療が全部停止することがあってはならないので、飲み会や食事会はしないのは当然ですが、普段の食事も別々です。マスク装着だけでなく、頻繁な手指消毒と手洗いを継続しており、自宅を出た後はほかを触った手指で目や口を触らないよう自分に課しています。そしてもし1~2名が自宅待機となった場合は残った人員でできるだけ業務を維持するつもりです。個人的な話になりますが、感染症の重症化因子を減らすために減量し、上がりかけていた血圧や血糖が正常化しました(写真は減量前のものです)。

     今後、アレルギー友の会での活動を通じて、患者さんに正しい情報を伝えていくだけでなく、アレルギーの診療が良くなる・円滑になるきっかけになればと思っています。どうかよろしくお願いいたします。