❶スギ花粉症の話
アレルギー性鼻炎は、体の外部からのアレルゲンに反応して鼻症状が繰り返し惹き起こされる疾患で、くしゃみ、鼻漏、鼻閉が3主徴です。
本邦において最も代表的なアレルゲンはスギ花粉と塵ダニです。とくにスギ花粉症は、国民の3割以上が患っているとされる国民病であり、小児から中高年者に至るまで幅広い年齢層がその症状に悩んでいます。
スギ花粉症の有病率は増加傾向で、一度発症すると自然寛解する人は一部に限られています。一般的には、抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、および鼻噴霧用ステロイド薬などによる治療が行われますが、これらは対症療法の域を出ておらず、アレルギー性鼻炎の根本的な治療とはなりません。
❷今、話題の舌下免疫療法とは
舌下免疫療法とは、2014年から保険診療として開始された治療法です。スギ花粉エキスが含まれた錠剤を連日舌下投与します。個人差はありますが、数カ月程度で効果が発現し、鼻症状の改善や使用薬剤の減量が見込まれます。対症療法とは異なり、体内でのスギ花粉への免疫反応をより源流に近い部分で抑えることができます。
臨床試験では3シーズン治療を継続することで、プラセボに対して45%以上の症状改善が認められました。その後、治療を終了したとしても、2シーズンは効果が持続することが明らかとなっています。
❸舌下免疫療法の適用と投与方法
舌下免疫療法ができる人は、当然ですが、スギ花粉症と診断された方になります。スギ花粉飛散シーズンの鼻症状悪化だけでなく、血液検査や皮膚テストでスギ花粉に対する抗体があることを確認する必要があります。スギ花粉舌下錠の使用でショックを起こしたことがある方や、重症の気管支ぜんそくの方には禁忌となります。
最初の1週間は2000JAUという単位の薬を舌下投与します。自宅で行うことができる治療法ですが、初回投与は医療機関で行い、アナフィラキシーなどが起こらないか観察する必要があります。2週め以降は5000JAUという単位の薬を使用します。
舌下投与は連日行い、舌下にて1分間錠剤を保持した後、飲み込みます。投与後5分は、うがいや飲食を避けます。また、投与後2時間は、激しい運動、アルコール摂取、入浴などを避けます。
❹副作用や注意点
この薬は、スギ花粉飛散期に開始することができません。治療開始後1カ月は副作用の発現が多いので注意が必要です。臨床試験では約50%の方に副作用を認めていますが、多くは口腔や咽頭などにおける軽症の腫脹やかゆみなどであり、治療を継続することでそれらの症状は消退します。アナフィラキシーなど全身の重篤な副作用が出現することは極めて稀です。口腔内に傷や炎症がある場合や風邪をひいた時などは、副作用が強く出る可能性があるので、主治医の先生と治療継続や中止の相談をする必要があります。
❺お子様、高齢の方、妊娠されている方
舌下免疫療法の適用に年齢制限はありませんが、臨床試験には5歳未満のお子様や、65歳以上の高齢の方は含まれていません。したがって、有効性や安全性の情報が少ないのが現状です。
お子様では舌下投与自体が適切にできるかを確認する必要があります。高齢の方では、スギ花粉症の自然改善を認める場合もあるので、治療効果の評価が難しい場合もあります。
妊娠すると鼻閉を中心としたアレルギー性鼻炎の症状が悪化することが知られています。前述の通り、舌下免疫療法開始後1カ月は副作用の発現が多いので、妊娠中に治療を開始することはできません。ただし、すでに妊娠前に治療を開始していて、維持期に達している場合は治療継続可能です。