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    第633号

    喘息治療 薬物治療の前に知っておくべきこと①

    東邦大学医療センター大橋病院呼吸器内科教授 松瀬 厚人先生

    ぜんそくの症状は氷山の一角

     ぜんそくの病態は、氷山にたとえることができます。ぜんそくの症状、すなわち突然ゼーゼーして、息が苦しくなるという発作。症状として、氷山のように海面上に少ししか出ていないけれども、本質はもっと大きくて、水面下に隠れている。それが何かというと、炎症というものです。

     ぜんそくの炎症、つまりアレルギー性炎症は、痛くもないし、熱ももたないのですが、非常に敏感になる。みなさん、けがをして、たとえばひざに炎症が起きている。その状態で冷たい水とか熱いお湯につかるとヒリヒリする。つまり、炎症があるととても敏感になって、普通の人には何ともないような刺激でキュッと反応して、空気の通り道である気道が狭くなって息が苦しくなる、これがぜんそくの本質です。しかし、日ごろから炎症を抑えておけば、ちょっとやそっとの刺激では狭くなりません。

    吸入ステロイドは完投型ピッチャー

     ぜんそくの治療は、スポーツの試合にたとえると、相手の強さで4段階に分けられます。

     相手が弱かろうが、強かろうが、絶対に使わないといけない薬がICS、つまり吸入のステロイド薬。野球の試合にたとえると、完投型ピッチャーが吸入ステロイドです。

     もう一つ、相手にかかわらず必ず出てくるのが、SABA(短時間作用型β2刺激薬)で、いわゆるリリーフピッチャーです。

     どんなにいい投球をしても、必ずピンチ、つまり発作が起きてしまうので、その時には、短時間型の気管支を広げる拡張薬、商品名で言うとメプチンやサルタノールなどを使いましょう。

     そして、完投型エースピッチャーである吸入ステロイドが投げていても、相手が強くなってくると、どうしても足りなくなってきます。それを助けるために出てくる中継ぎピッチャーとしていろいろな薬が登場してきています。とくに最近、重症の中で注目されているのは抗体製剤です。今、ぜんそくに対しては、五つの抗体製剤を使うことができます。

    どんなにいい薬も、使ってもらわないと意味がない

     ただ、どんなにいい武器があっても、使ってもらわないとどうしようもないという事例をお示しします。

     20代の男性で、重症ぜんそくです。しかし、定期的な受診はしていません。9年間で4回人工呼吸、大発作を起こしたという方です。この年は、11月に風邪をひいて調子が悪くなった。2日後には動けなくなっていて、お母さんが救急車を呼ばれた。意識喪失、5回目の挿管、人工呼吸ということになりました。

     この方の場合は、キャラクターの問題と経済的な不安定性もあって、なかなか定期的な受診ができなかった。そういう問題もあるのですが、どんなにいい武器があっても、使ってもらわないとどうしようもありません。

    ぜんそく診断のヒントになる症状

     薬物治療の前に、適切に薬を使うことと同じくらい重要なこと、それは我々医師の側の問題ですが、正しく診断をすることです。これがなかなか難しいことです。ぜんそくは診断基準というのが存在しない病気だからです。

     症状として典型的な場合は、喘鳴があり、咳が出て、痰が出て、苦しくなる。胸の痛みというのもよくあります。チクチク痛むとか、胸や背中が張ったような感じがある。

     また、ぜんそくというのは日内変動があります。昼間よりも夜、夜の中でも、寝入りばなより、夜中から明け方に症状が出やすい。さらに季節性があり、真夏や真冬よりも、春先の暖かくなる頃、そしておそらくいちばん多いのが、寒くなる頃の秋に調子が悪くなる。これらにぜんそくの診断のヒントがあります。

     そのほかに、ほかのアレルギー疾患を合併している、血液検査でアレルギーが見つかる、このようなことから総合的に判断するのですが、診断がなかなか難しいことがあります。

    (2023年11月12日 日本アレルギー友の会講演会より、採録 増谷)

    講演内容の動画を配信していますので、メールでお申し込みください。

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