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    第634号

    アトピー性皮膚炎の治療薬の整理とこれからの治療の展望③
    ~新しい薬と展望~

    獨協医科大学医学部皮膚科学講座主任教授 井川 健先生

    新薬について

     日本で2018年以降に出てきた新薬は、生物学的製剤、抗体製剤である注射薬、デュピルマブ(商品名はデュピクセント)が最初です。2022年は、ネモリズマブ(商品名ミチーガ)が出ました。最近(2023年)使えるようになったのが、トラロキヌマブという薬です。
     JAK阻害薬は、外用薬一つと内服薬があります。あと、PDE4阻害薬は外用薬が一つ出ています。
     IL-4とかIL-13、IL-31、サイトカインというタンパク質はアトピー性皮膚炎の中心的な役割を果たしていますが、新薬の多くはこれらのサイトカインを主なターゲットにしており、実際によく効いています。

    新薬の効果、実績

     生物学的製剤・抗体製剤(注射薬)で治療した大人の患者さんの治療例です。外用剤の治療をしっかり受けていて、とても良くなった状態で、患者さんは治療に不満はなかったのですが、程度は中等症くらい、顔も少し赤く、体もガサガサしている状態が継続していました。そこで、新しい薬が出たので、どうでしょうとお話ししました。必ず使うようにという話ではありませんでしたが、ちょっと試してみようということになりました。
     薬を始める前は1だったDLQIの値が、3カ月後、0になりました。DLQIとは、患者さんのQOLがどの程度障害されていたかの値です。1は、ほとんど不満がない状況です。患者さんは「新薬を始める前でも十分満足していたが、まさかここまで良くなるとは思っていなかった」と、とても喜んでいました。
     JAK阻害薬を飲んだ患者さんも、よく効きました。この患者さんは、数日でかゆみがなくなり、4週間では皮膚の症状が非常に良くなりました。

    外用剤はやはり重要

     これは少し未来の推測です。
     乾癬という皮膚の病気がありますが、皮膚の症状は、体全体の炎症反応の一面を見ているのではないかという考えがあります。実際、アトピー性皮膚炎でも、高血圧の症状や、自己免疫性疾患の併発などがあるようです。
     今は、皮膚症状が重症な人に、その重症度がある値を超えたら、全身療法をしっかりやりましょうと話をする、と決められています。もしかしたら、このような全身療法の導入の目安が皮膚症状に対する判断だけではなくなって、患者さん側からの重症度の指標や、ほかの全身性の症状なども判断材料に入ってくるような時代もくるかもしれません。
     さて、新しい薬は、使うことによって非常に良くなりますが、注意すべきは、それでもまだ外用剤が重要だということです。
     臨床治験のデータでは、デュピルマブだけ投与されて治療された患者さんが、ある程度しっかり良くなったと判断された割合は50%くらいでした。デュピルマブ投与に加えてステロイド外用剤をしっかり使った時にはその割合が70%くらいまで上昇することが報告されています。外用剤を併用するほうがはるかに良くなりますので、外用剤はまだまだ非常に重要な治療法ということになります。

    治療の問題点とこれからの展望

     現時点で、新しいアトピー治療に関する問題点はいろいろあると思います。
     まず、高い薬であること。では、単純に低額になれば良いかといえば、違うので、なかなか難しい話です。
     治療対象はまだ手探りです。現時点では他覚的な重症度のみで判断され、日本では中等症以上です。欧米では最重症にしか使えません。これは高額な薬ということのほかに、本来この薬をより使うべき患者さんとそうではない患者さんとをきちんと分けながら使わないといけませんが、それが実はまだわかってないため、手探りなのです。薬をいつやめられるかもわかっていません。やめた患者さんもいますし、やめてまた使う患者さんもいます。
     安全性の問題については、たとえばデュピルマブは発売して6年たちましたが、今のところ大きな副作用は出ていないようです。しかし、これを10年、20年使った時にどうなっていくかは、これからの問題です。まだ単剤では難しい薬です。良くはなる薬ですので、いろいろ組み合わせて使っていく必要があります。
     まとめると、アトピー治療の世界はどんどん進んでいます。本当に期待して良いと思いますので、主治医の先生とよく相談して、自分に合った治療法を使っていくといいと思っています。
    (2023年11月12日 日本アレルギー友の会講演会より、採録 平野)

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