アレルギー性鼻炎の重症化ゼロを目指して、というタイトルでお話をさせていただきます。今、耳鼻咽喉科の学会では、標準治療の啓蒙や普及を行うことで、2030年までに花粉症の重症化ゼロを目指すキャンペーンを進めているところです。
花粉症重症化ゼロ作戦のホームページが立ち上がっていまして、鼻炎の重症化とはどういうものか、その重症度のチェックなど、患者さんが見ても、とてもわかりやすいものになっていますので、興味がある方はぜひご覧になってください。
https://kafunsho-zero.jibika.or.jp/
アレルギー性鼻炎とはどんな病気か
アレルギー性鼻炎というのは、何らかのアレルゲンが鼻の中に入ってきて、鼻粘膜でアレルギーの炎症が起こり、発作性・反復性のくしゃみ、水様性の鼻漏、鼻閉を3主徴とする疾患です。全体として、国民の40%以上が罹患しているといわれており、近年増加傾向にあります。
大別すると、本邦では通年性アレルギー性鼻炎と花粉症に分けられます。通年性アレルギー性鼻炎の原因はダニやほこりが中心で、学童・小児の男児に多い疾患です。一方の花粉症は季節性のアレルギー性鼻炎で、本邦ではスギ花粉症の患者さんが多いです。
みなさんの中にも、スギ花粉症をおもちの方がたくさんいらっしゃるのではないかと思いますが、10代から50代に多く、最近では小児でも増加しているということが問題になっています。
そのほかにも本邦では四季折々、年間を通してさまざまな花粉が、この季節性アレルギー性鼻炎の原因になります。中心になるのは、やはりスギ花粉です。鼻腔ではだいたい10ミクロン以上の粒子をとらえることができるといわれています。
スギ花粉の粒子はどれくらいの大きさかというと、20から40ミクロンといわれています。一方、ダニは甲羅や糞などがアレルゲンになるのですが、砕けると10ミクロン以下になります。つまり、スギの花粉というのは、ほとんど鼻でとらえられるので、スギ花粉症は主に鼻の疾患になります。一方、ダニは鼻でもとらえられるのですが、通り抜けて気管のほうに入ってしまうと、後からお話のある気管支ぜんそくの原因になりえるアレルゲンといえます。
アレルギー性鼻炎はどのように起こるのか
まず何らかのアレルゲンに対してIgEという抗体が作られ、マスト細胞の表面にくっつきます。このスタンバイしている状態を「感作している状態」とよびますが、そこに新たにアレルゲンが入ってくると、抗原抗体反応が起こって、マスト細胞の中の「ヒスタミン」などの化学物質が出てきます。ヒスタミンは神経に作用して「くしゃみ」あるいは「鼻水」などの原因になり、あるいは「ロイコトリエン」などが血管に作用して、鼻づまりの原因にもなってきます。
スライド1は、耳鼻咽喉科医とその家族、だいたい1万人くらいを対象に行っているアレルギー性鼻炎の疫学調査です。
スライド1
この調査は、1998年、2008年、2019年に行われましたが、2019年のアレルギー性鼻炎全体の有病率は何と49.2%であり、だいたい2人に1人がアレルギー性鼻炎をもっている、そんな時代になっています。耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした調査ということで、耳鼻咽喉科医が診断しているはずなので、診断に関しては比較的正確なデータであると考えられます。
スギ花粉症について
スギ花粉症は、1998年には16%くらいだったのが、2008年には26%、そして2019年は38%と、約4割の有病率の疾患となっているような状態です。2008年、2019年の年齢別のデータをみてみます。
2019年のデータでは、10代から50代のスギ花粉症の有病率は45%以上になっています。また、5歳から9歳をみてみると、2008年の調査では通年性アレルギー性鼻炎が多かったのですが、2019年の調査ではスギ花粉症のほうが多くなっています。お子さんの中でも中心となるのはスギ花粉症、というような時代になっています。
ダニが原因となる通年性アレルギー性鼻炎について
ダニが原因となる通年性アレルギー性鼻炎というのは、実は食物アレルギー、アトピー性皮膚炎や気管支ぜんそくなど、ほかの小児のアレルギー疾患との合併が多いということが知られています。
これは我々の調査ですが、気管支ぜんそくを合併していない食物アレルギー、アトピー性皮膚炎のお子さんでは、実に42%が通年性アレルギー性鼻炎を合併していました。さらに、気管支ぜんそくのお子さんでは68%が合併しており、ほかのアレルギー疾患との関連が深い病気ということがわかります。
アレルギー性鼻炎が増えた理由
なぜこのようにアレルギー性鼻炎が増えてきているのか。その発症の原因の一つとして遺伝要因があります。
これは以前の海外の研究ですが、お父さんにアレルギー疾患があると1.64倍、お母さんにアレルギー疾患があると2.28倍、ご両親にアレルギー疾患があると4.10倍、アレルギー性鼻炎になりやすいということが報告されています。この結果からは、遺伝要因は確かにあるようです。
ただ、一方で環境要因も、アレルギーが増えている原因です。母体・母乳の影響、大気汚染、タバコ、居住環境、食生活、腸内細菌叢の変化、そして感染症の減少などがアレルギー性鼻炎増加の原因といわれています。
ただ、スギ花粉症に関しては、やはりスギの花粉自体が増えてきているということが、この有病率増加の大きな原因の一つになっています。
1940年から1950年くらいの間に、全国的にスギが植えられたようです。その時代はちょうど太平洋戦争が終わった後、治水あるいは木材調達などの目的のために、本州、四国、九州に、国の方針としてスギの苗が植えられました。それから30年経って、花粉を作るような立派なスギの木に成長し、花粉症が増えてきたというような時代背景があります。
ただ、このスギの苗が植えられなかった地方もあります。それは北海道と沖縄です。ですから、どうしてもこの季節、スギ花粉から逃げたいということであれば、北海道あるいは沖縄に旅行するとスギ花粉から逃げられるかもしれません。
抗原の回避、薬物療法について
我々のガイドラインにおける標準治療では、花粉症の重症度あるいは病型から、薬の使い分けや組み合わせを考えます。病型とは、くしゃみや鼻漏が多いのか、あるいは鼻閉が中心なのかで分けます。
そんなに多くの種類の薬が使われているわけではなく、たとえば第2世代抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、あるいは鼻噴霧用ステロイド薬などが中心で、最近の治療では抗IgE抗体、根本的な治療としてアレルゲン免疫療法などがあります。ただし、根底にある治療は、やはり抗原除去・回避です。
まず、ダニやほこりの除去に関しては、きちんと掃除をすることが大切です。布団やぬいぐるみはほこりが多いので、なるべく天日干しにしてほこりをなくします。最近ではエアコンも性能が良いものが出ていますし、空気清浄機を使っていただくのもよろしいのではないかと思います。
さらに花粉に関しては、花粉の情報に注意し、花粉が多い時はなるべく外出しないほうが良いのですが、やむなく外出する場合はマスクや眼鏡を使うことが勧められています。そして帰宅した際にはなるべく花粉を家の中に持ち込まないようにする、といったような抗原の回避方法が推奨されています。
処方される治療薬について
治療薬に関しては、おそらくいちばん使われているのは抗ヒスタミン薬ではないかと思います。即効性があって、とくにくしゃみ、鼻水によく効くといわれています。鼻づまりには少し効果が弱いとされていますが、最近の薬は鼻づまりにも効果があります。
副作用としては眠気などがあります。抗ヒスタミン薬が感冒薬にも含まれていることがありますので、感冒薬で眠くなるという方は注意が必要です。ただ最近の薬は、この眠気などの副作用がかなり改善されています。
次に抗ロイコトリエン薬です。これは効果が十分発現するまでに少し時間がかかるのですが、鼻づまりに効果が高いという特徴があります。気管支ぜんそくの治療薬としても使用されています。
アレルギー性鼻炎の薬物治療の中で、いちばん強力な薬は鼻噴霧用ステロイド薬です。くしゃみ、鼻水、鼻づまりに強い効果をもちます。そして時に刺激はあるのですが、副作用は比較的少ない薬です。連用で十分な効果が発揮されますので、早めの治療が大切です。
また、ほかの治療法としては漢方薬も使われます。小青竜湯という薬がアレルギー性鼻炎にはよく使用され、ドラッグストアでも購入することができます。
今からできる対策と新しい治療
花粉が飛び始め、花粉の曝露を繰り返すと、どんどん症状が強くなります。大切なのは、早めの治療を心がけることです。花粉が飛び始めて症状が出たらすぐ治療することで、症状の山を低くすることができるのです。あるいは、症状の本格化を遅らせることができるといった効果も見込まれます。
新しい治療法としては、抗IgE抗体療法というものがあります。これは2019年から開始された方法で、重症のスギ花粉症の患者さんに行える注射の治療です。先ほどお話しした、抗IgEの働きを直接弱めるような治療法になるのですが、少し値段が高い治療法です。
そして根本的に体質からアレルギー性鼻炎を治したいという希望をおもちの方には、アレルゲン免疫療法という治療法があります。従来から行われている皮下免疫療法と、今中心となっている舌下免疫療法があります。
舌下免疫療法は新しい薬といっても、販売開始からすでに10年くらい経っています。アレルゲンの錠剤を舌の下に置く投与方法なのでご自宅で治療ができ、患者さんの負担が少なくすみます。
2014年からスギ花粉症、2015年からはダニの通年性アレルギー性鼻炎の治療として開始されています。現在はそれぞれに舌下錠が販売されており、3年くらいその治療を継続することが推奨されています。年齢制限なく使用することができるのですが、一般的には5歳以上に行われている治療です。
スライド2は、スギの舌下免疫療法を3年行った場合にどれくらいの効果があるかを調べたものですが、3年治療を行うと、偽薬に対して実薬では46.3%症状を抑制することが示されています。
スライド2
しかも、おもしろいのは、3年で治療を中止したとしても、その後2シーズン効果が持続するということです。アレルギー性鼻炎の自然経過を変える、体質を変えることができる、そういった根本的な治療であるということが示されていると思います。
また、スライド3はダニの舌下免疫療法の効果を示しています。投与開始後、1年後、2年後、3年後、4年後と、徐々に効果が強くなっていることがわかります。4年治療を継続すると、実に90%以上の方が軽症になります。しかも重症以上の方はもともと46.4%だったのが、1%にまで減少させることができています。ただし、継続している人数が徐々に少なくなっていることも考慮に入れる必要があります。
スライド3
花粉と食物アレルギーの関連性
最後に、花粉―食物アレルギー症候群というものについて、少しお話をさせていただきます。みなさん、花粉症が食物のアレルギーに関係するということをご存じでしょうか。
簡単にお話しすると、食物と花粉には多数のアレルゲンが含まれているのですが、それらの中で共通のアレルゲンが存在するケースがあります。たとえば、有名なのはシラカバ花粉とバラ科の果物です。バラ科といってもあまりピンとこないと思うのですが、有名なところではリンゴ、モモ、サクランボ、ビワなどです。シラカバの花粉症がある方の中には、これらの果物を食べることで、口の中のかゆみや腫れを自覚する方がいらっしゃいます。
(2024年11月10日開催 日本アレルギー友の会創立55周年記念特別講演会より、採録 有岡)
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