ぜんそくの放置は呼吸機能が低下していく主原因の一つ
アレルギー治療の進化・希望の未来をテーマにお話をさせていただければと思います。
今までは、ぜんそくの治療は症状をコントロールするということに主眼がおかれていたのですが、これからは将来を見据えた治療をしていこうという流れになっています。
たとえば糖尿病でも、単に糖を下げるだけの治療は現在行われておらず、心筋梗塞のリスクも下げることなどが証明されている治療がだんだん選ばれてきています。ぜんそくもただ、今の症状を取るだけの治療ではなく、将来どのような効果が期待できるのかということを考えながら治療していく方向になっているということを、まず強調させていただきたいと思います。
アレルゲン免疫療法や生物学的製剤など最近いろいろ出てきていますが、アレルゲン免疫療法や一部の生物学的製剤では、体質改善効果が見込めるような、将来を見据えた治療になっているということが重要です。我々治療を行う側、とくに専門医が、そのような意識をもちながら治療を始めているのだ、ということが今回お話ししたいメッセージです。
ガイドラインの治療管理目標のいちばん上に症状のコントロールというのがあるのですが、二番めが将来のリスク管理とされています。ぜんそくを放置しておくと、だんだん一秒量(1秒で呼出できる肺活量)が下がってきてしまいます。たとえば大人になって、一秒量が下がるいちばんの原因はタバコですが、二番めの原因には、ぜんそくの放置があります。もう一つ重要なことは、主に内服のステロイドに代表される治療の副作用の発現を回避すること。副作用の発現を回避し、健康寿命を良好に保つことが目標にされています。
吸入ステロイドは画期的な効果をもたらす薬
まず吸入薬による治療についてお話ししたいと思います。
ぜんそくは気管支が狭くなり、ゼイゼイヒューヒューし、咳の出る病気だと理解されています。気道過敏性によって、冷気などちょっとした刺激に対して敏感に反応するのがぜんそくの咳です。治療をしていかないと、リモデリングといって、肺が固くなって、気管支が狭い状態が維持されてしまいます。咳が出て気管支が狭くなるという状態、その上流にあるのが、とくにリンパ球や好酸球などの白血球が気道に集まってくる炎症といわれるもので、このような炎症が起きてくるのがぜんそくの病態とされています。
この炎症をどう防ぐかというのが、今まで行われてきた治療です。その代表が吸入ステロイド薬です。ステロイドは飲むと副作用があるのですが、吸入ステロイドというのは吸入後にうがいをして残らないようにし、血液中にはほとんど入ることはない、ということで、基本的には普通の量であれば安全に使えます。これにより、ずいぶんぜんそくの治療は進歩しました。
私も医者になって3年目くらいの時に、病院で、今まで吸入ステロイドを出されていなかった方に吸入ステロイドを出すことを始めたわけですが、それだけで本当に患者さんが良くなって、名医が来たと言われたくらいです。それくらいすごい効果があったのですね。
吸入ステロイドは症状が改善しても継続して使うことが大切
吸入ステロイドは本当に大事な薬で、診断がついたら早く治療を行うことが重要だといわれています。これは吸入ステロイドだけではなく、ほかの薬でも同じことが報告されていますので、放置するのはあまり良くないということです。
6カ月以内に治療を始めると、呼吸機能の改善効果が高く、また吸入薬は症状改善後やめてしまうと、かなりの方で気管支が敏感になってしまうというデータがあります。治療をやめるとすぐ症状が出るとは言いませんが、やはり半年、1年くらい経ってくると、気管支が敏感になってきます。敏感になると、風邪や花粉などの刺激でまた発症する可能性があるのです。したがって、治療により症状が良くなってもなるべく治療は継続していただく、吸入する量は減らすとしても継続していただく、ということをお話ししています。
呼吸苦や咳の症状を抑えるために気管支拡張薬を併用する
吸入ステロイドだけで効果が不十分な場合は、気管支拡張薬を併用します。LABA(長時間作用型β2刺激薬)とLAMA(長時間作用型抗コリン薬)というのがあり、この二つの気管支拡張薬を使用します。
現在は吸入ステロイドと気管支拡張薬の配合剤がありますので、初めから配合剤を使用することが多いです。吸入ステロイド、LABA、LAMAが配合されているトリプル製剤というのも最近使われてきています。
気管支拡張薬は、基本的には病気を良くする薬ではありませんが、症状を良くする薬なのでらくになる、そのような目的で併用します。病気を抑えるためには、吸入ステロイドがいちばん重要なのですが、呼吸苦や咳などの症状を抑えるためには気管支拡張薬の併用をします。
吸入薬の吸い方は何度でもチェックすることが重要
みなさん、吸入薬はどのようなものを使っているでしょうか。
DPI(ドライパウダー吸入器)といわれる粉の製剤とpMDI(加圧式定量噴霧式吸入器)というミストの製剤があります。ドライパウダーは自分のタイミングで吸えるところがメリットで、タイミングを合わせる必要はないのですが、吸気流速が重要で、しっかり早く吸う力がないと、なかなか効果が最大限になりません。ただしドライパウダーは1日1回の薬もそろっているので、よく使われています。
ミストの吸入薬は、シュッというタイミングに合わせて息を吸う必要があるのですが、ゆっくり大きく吸うことが大事です。スペーサーといわれる補助器を使うと、自分のタイミングでも吸えますので、薬が奥まで行きわたりやすいです。
吸入薬の吸い方は何回もチェックしてもらうことが大切です。自分一人で正しい使い方だと思っていても間違っていることがありますので、看護師さんや薬剤師さんに吸入指導をお願いし、チェックしてもらってください。治療により症状がいったん良くなった後に再度呼吸機能が下がっていく状態の時に、吸入の指導をすると、呼吸機能の改善がみられたというデータがあります。
シムビコートの効果的な使い方
シムビコートという薬を使っている方がいるかもしれませんが、この薬は、症状が出た時に追加吸入することで、さらなるぜんそくの悪化を防ぐことができます。シムビコートをお使いの方には、たとえば風邪をひくなどしてぜんそくが悪化した場合は、私に相談する前に吸入回数を増やしてください、という話をしています。シムビコートは1日8吸入まで使うことができます。日本では保険適用はないのですが、フルティフォームでもおそらく同じような効果があると思いますし、私は同じように指導しています。
免疫療法はいろいろなアレルギーの病態を同じように良くする
アレルゲン免疫療法の話をしたいと思います。
原因のアレルゲンを少量ずつ体内に入れていき、徐々に慣れさせていくことによって、アレルゲンに対する反応を鈍くするという治療です。ダニによるぜんそく、鼻炎、スギ花粉症が適用となり、体質改善が期待されます。
皮下注射と舌下法があります。皮下注射はぜんそくと鼻炎の方に適応があります。舌下法は鼻炎に保険適用されていますが、ぜんそくは鼻炎の合併率が70%ありますので、鼻炎をおもちのぜんそくの方にも舌下法は使えます。免疫療法には、いろいろなアレルギーの病態を同じように良くするというのが一つ特徴としてあります。ぜんそくだけの治療ではなく、アレルギー性鼻炎や結膜炎等も良くするということです。
ダニの免疫療法をすると、ダニを原因としたぜんそく、鼻炎そして結膜炎、すべてに効果があるのが特徴です。また、スギ花粉は基本的にはぜんそくを起こさないのですが、風邪をひいたり花粉症になったりすると、ぜんそくも悪化します。花粉症が悪化している時はぜんそくも悪くなることが多いのですが、スギの舌下免疫療法をやっていると、ぜんそくの悪化をワンシーズンほぼ100%抑えたというデータがあります。舌下療法を使っていない方では約3割がこの時期にぜんそくが悪くなったのですが、舌下療法をやっていると、全く悪化が起こらなかったということになります。鼻炎はぜんそくの悪化に関与しますので、免疫療法にはその関与を断ち切る作用があります。
アレルギー免疫療法には新しいアレルギー疾患の発症を抑える効果がある
海外のデータですが、5年間で舌下免疫療法をやめても8年間は効果がもつ、という報告があります。舌下免疫療法を5年行って中止しても、中止後8年間は、何もしていない人よりも症状が良い状況が維持された、というデータです。さらに、それ以外にも新しいアレルギー疾患の発症を抑えたりします。
アレルギーの患者さんというのは、新しいアレルギーになりやすい。何もしていないと、15年の経過で100%ほぼすべての患者さんが新しいアレルギーを獲得してしまう、という報告があります。ダニにのみアレルギーがあっても、スギ等にもアレルギーが出てきてしまった、などという例です。このようなアレルギーの獲得(感作)というのは100%起こってくるのですが、3年から5年ほど免疫療法で治療していると、感作が起こる確率が約20%にまで下がる、約8割抑えられたというデータがあります。
このように、アレルギー免疫療法には新しいアレルギー疾患の発症を抑えるという注目すべき効果があり、将来を見据えた治療になっているということを強調させていただければと思います。
副作用を防ぐという点で生物学的製剤を導入していこうという流れがある
生物学的製剤についてお話ししたいと思います。
吸入ステロイドは安全なのですが、経口ステロイドは、年4回以上服用すると、副作用が出やすくなります。たとえば骨粗しょう症や糖尿病、消化器疾患などの副作用があり、我々も診療ではできるだけ経口ステロイドを、頓用も含めて減らしていくことを心がけざるをえないということが背景としてあります。したがって、経口ステロイドを処方するのであれば、コストの問題はあるのですが、副作用を防ぐという点で生物学的製剤を導入していこうという流れになっています。
現在、生物学的製剤は5剤あります。どの患者さんにどのような製剤を選んでいるかというと、バイオマーカーとしては、好酸球の値やNOの値といった検査データをみています。NOというのは、気道の炎症をモニターするマーカーです。これらの値に加え、ほかのアレルギー疾患の併存をみながら決めています。
ゾレア(抗IgE抗体)は花粉症やじんましんにも効きます。ダニなどに対してアレルギーがある方が適応になります。ぜんそくだけでなく、花粉症や慢性じんましんがある方にも効果があるということですね。ヌーカラ(抗IL-5抗体)、ファセンラ(抗IL-5受容体α抗体)は好酸球が高いぜんそくの方によく効くことがわかっています。デュピクセント(抗IL-4受容体α抗体)は、IL-4というアレルギーを司る物質に対する抗体なのですが、NOが高い方に効果があります。副鼻腔炎やアトピー性皮膚炎などにも適応があり、これらのアレルギー疾患が合併している場合にはより強くお勧めしています。テゼスパイア(抗TSLP抗体)は、ほかの製剤で効果が乏しい場合に使用します。
これらの製剤の適応は、高用量吸入ステロイドを使用していても年間2回から4回の経口ステロイドを必要とする増悪があるぜんそく患者となります。もちろんステロイドを継続的に飲んでいる方も適応となります。ステロイドを減らしていこうということが、将来を見据えた上での生物学的製剤による治療になっているということです。
このような観点で、現在デュピクセントが注目されています。この製剤をアトピー性皮膚炎の治療で使うと、ぜんそくの発症を減らすということが報告されています。デュピクセントは現在、小児から使えるようになってきており、将来的なアレルギー疾患の発症を抑える可能性があります。
ほかのアレルギー疾患の治療もぜんそく治療に取り入れる
最後にまとめますと、いちばん大事な治療は吸入ステロイド薬を中心とした治療であり、これを早期に導入し、治療を継続することがポイントです。
免疫療法はダニ・スギが関係する鼻炎・ぜんそくに有効ですが、ほかのアレルギー疾患の発症を防ぐ可能性や、体質改善効果が注目されています。ぜんそくだけ見ていればいいということはなく、ほかの病気を考えながらぜんそくの治療として取り入れていく必要があると思います。
(2024年11月10日開催 日本アレルギー友の会創立55周年記念特別講演会より、採録 増谷)
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