記事ごとに探す

キーワード

検索する期間

月 から

月 まで

カテゴリ一覧

  • 講演会
  • 編集室
  • 相談窓口から
  • 新薬紹介
  • 寄稿
  • 勉強会・患者交流会
  • 体験記(食物アレルギー)
  • 体験記(気管支喘息)
  • 体験記(アトピー性皮膚炎)
  • ニュース(友の会関連)
  • ニュース(一般)
  • その他
  • イベント告知
  • イベントレポート
  • アレルギー専門病院めぐり
  • 640号創立55周年特別記念号
  • 600号特別記念号
  • 2 0 2 5

    第640号

    小児・食物アレルギー部門講演
    小児の食物アレルギー診療 ~治療し予防できる時代へ~

    国立研究開発法人国立成育医療研究センター
    アレルギーセンター総合アレルギー科診療部長 福家 辰樹先生

    アレルギーマーチの予防はアトピー性皮膚炎の治療から

     私事で恐縮ですが、私自身が子どもの頃に重症ぜんそくで、この「アレルギーマーチ」の概念を提唱された馬場實先生がおられた同愛記念病院に通っていました。先生にかかって初めて症状が劇的に良くなり、今こうしていられるのも馬場先生のおかげであると本当に感謝しています。
     アレルギーマーチの典型としては、根幹にまずアトピー性皮膚炎があり、食物アレルギーやぜんそく、鼻炎の発症リスクとなることが知られています。たとえば、積極的な寛解導入プロアクティブ療法を中心とした治療の開始の時期が早いほど食物アレルギーを発症しにくいことを当科から報告しました。とくに、湿疹を7~8カ月放置していると、急激に発症する割合が高くなるかもしれません。現在では、世界的な大規模疫学調査において、乳時期のアトピー性皮膚炎や、かゆみを伴う湿疹が小児期食物アレルギーの最大のリスクだとわかっており、卵については5~10倍ほど発症しやすくなるといわれています。
     どうして、まだ食べてもいないのに血液検査で卵の特異的IgE抗体が陽性になるのでしょうか。たとえば、日本の家屋のほこりを集めて成分を調べると、すべての家屋で卵は100%検出されて、ダニよりも桁違いに多いことがわかっています。その家に住む家族のピーナッツ消費量が多いほど、ほこりに含まれるピーナッツ量が増え、ほこりのピーナッツ濃度はその家の赤ちゃんのピーナッツアレルギー発症と比例します。一方で、食べている食物に対しては経口免疫寛容のシステムが働くことで、食物アレルギーを起こさないようになります。

    家族のアレルギー体質はリスクの一つにすぎない

     確かに、親や兄弟にアレルギー疾患がある場合は、そうでない場合に比べて2、3倍ほど発症リスクが高くなることが知られています。ただし、いわゆる遺伝子検査でアレルギーになりやすいかどうかを調べることはできません。しかしアレルギー発症のリスクと最も関連するものとして、フィラグリン遺伝子というものが知られています。これは皮膚の天然保湿因子の原材料として存在しているタンパク質です。カサカサ肌の家系の原因遺伝子として昔から知られているもので、両親から授かった遺伝子の片方が欠けると、乾燥しやすくなることでアトピー性皮膚炎が発症しやすくなり、皮膚からアレルゲンが侵入して食物アレルギー、あるいはぜんそくの発症リスクになるとされています。ただ、そういった家系であったとしても炎症にかゆみが伴わない場合にはリスクにはならないとも知られています。そのため、乳児のアレルギー体質が進まないよう、アトピー性皮膚炎を長引かせず、しっかり治していくことが重要と考えられています。

    小児期のバラエティ豊かな食生活はアレルギー疾患を予防する

     世界的にはピーナッツアレルギーは非常に重篤な疾患とされており、かつて、英国では発症予防を目的に乳児はピーナッツを食べないようにとの推奨がなされていました。しかしその後、それを検証するために、除去した乳児と溶かしたピーナッツを食べていた乳児とを比べたところ、溶かしたピーナッツを食べていたほとんどの乳児がピーナッツアレルギーにならなかったとの報告(LEAPスタディ)があり、その後世界的に、離乳食の開始時期を遅らせないほうが良いと育児書にも書かれるようになりました。
     これはさまざまな食べもので同様の研究がされていて、たとえば、アトピー性皮膚炎の乳児約120名を対象に行った当センターの調査では、卵を全く食べないままだと38%が1歳時に卵アレルギーを発症したのに対し、皮膚炎をしっかり治した後にごくわずかな量から卵を持続的に食べている場合には8%のみと、8割近く発症が抑えられました。つまり、アトピー性皮膚炎の治療をしっかり行い、少しでも食べて、不自然な完全除去としないことが重要です。

     さらには、個別の食物に対してだけではなく、乳児期にバリエーションの多い食事、つまり多様性のある離乳食を摂っているほうが、その後の子どものアレルギー疾患の発症が少ないということも、さまざまな出生コホート研究により知られています。この理由の一つとして、腸内細菌のえさになる食物繊維が多い食事では、その代謝物である短鎖脂肪酸がアレルギー炎症を抑えて免疫力を高め、余計な炎症が抑えられると考えられています。

     また、完全母乳栄養による食物アレルギーの発症予防効果は、今でも十分には証明されておらず、ミルクを少量でも摂取し続けるほうが牛乳アレルギーになりにくいという報告もあります。

    生活スタイルの見直しも重要

     小児のアレルギーではとくに、「成長すれば自然に良くなるのでは」と期待することももちろんあると思います。しかし残念ながら、発症した状況と全く変わらない住環境や食生活であれば、悪化する可能性すらあるわけです。ダニの住みにくい環境整備も大事で、アジア人を対象にしたシステマティックレビューでは、カビの温床である結露の多い住居がアトピー性皮膚炎の発症リスクと報告されています。アレルギー性鼻炎には舌下免疫療法も有効です。なかなか食物アレルギーが治らないなという場合、アレルギー体質自体が治っていないこともあり、そこをぜひ一度見直し、変えていくことも重要です。

    IgE抗体があっても食物アレルギー反応が起こるとは限らない

     当院を受診される方の中には、IgE値が非常に高値で、負荷試験すら難しいと言われて紹介されてくる方もいます。それでも、きちんと取り組むことで、重篤な食物アレルギーを克服する方々もいます。アレルギーの代表的な“役者”は「肥満細胞」(マスト細胞)といい、アレルギー物質、かゆみ物質をためこんでいます。次にY字のアンテナのようなIgE抗体があり、ほこりアレルギーの人はほこりの中にいるダニ用のアンテナをもち、卵アレルギーの人は卵用のアンテナをもっています。このIgE抗体が肥満細胞に付くと、シグナルを伝達してアレルギー物質のヒスタミンやロイコトリエンを放出し、アレルギー症状が誘発されます。
     スギの舌下免疫療法をご存じだと思います。タブレットにしたスギ花粉を毎日なめていると免疫がついてスギ花粉症が治っていく、症状が緩和する治療法です。機序の一つとして、スギの花粉をなめていると、スギのIgG4抗体が出てきます。IgG4抗体はIgEをブロックするブロッキング抗体として、アレルギー症状を抑制します。ところが食物アレルギーではIgEしか検査できません。その結果だけをみて除去してしまっては本末転倒です。
     こうしたスイッチが、実はほかにもたくさんあります。こういうバランスに基づいて初めて症状が出るにもかかわらず、血液検査結果だけで、「木を見て森を見ず」ではありせんが、除去してしまうケースが後を絶ちません。それは、むしろ逆効果であることがわかると思います。

    IgE抗体値はその症状が誘発される可能性と反応の確率をみている

     食べると消化されてIgEが認識できず、少量食べても大丈夫になり、IgG4による免疫ができるとより多く食べられ、もっと食べられるとさらに免疫がつき、さらに時間経過により自然と治る、良い循環へもっていくことができるわけです。IgEが結合する食物のタンパク質の結合部位をエピトープといい、同じエピトープを認識するIgG4がアレルゲン上でIgEの結合を競合阻害し、アレルギー反応を抑制します。そして、アレルゲン自体も近づかせない働きもあります。
     いわゆるアレルギーの検査は、生の米や大豆を試薬として使って反応をみています。たとえば、検査に使うピーナッツのアレルゲンは粗抽出アレルゲンといって、現在は約30種類のアレルゲンが同定され、その複合体です。PR-10タンパクやプロフィリンのほか、Ara h2という重篤な症状に関連する重要なアレルゲンがあります。

    必要最小限の原因の除去が大事

     食物アレルギーのお子さんが日々をどう過ごすか。食物アレルギーの管理では、「正しい診断による原因食物の必要最小限の除去」が大事です。「正しい診断」は食物経口負荷試験に基づいた診断です。また「必要最小限の除去」には二つ意味があります。一つは、特定のナッツアレルギーなのに、不必要にすべてのナッツ類を除去しているようなケースについて、「種類としての必要最小限」を言っています。もう一つは、ある食品を食べるとアナフィラキシーが起きる、たくさんの量を食べると出るけれども、少ない量だったら食べられるという「量としての必要最小限」の意味があります。
     食物アレルギーガイドラインには、少量、中等量、日常摂取量の3段階で食物負荷試験を実施し、食べられる範囲、摂取可能量を見極め、それに応じた栄養食事指導につなげていくことにしています。もし少量で陽性となる場合は重症とされ「完全除去」とされます。ただ完全除去は確かに症状の誘発リスクを抑えてくれるのですが、アレルギー体質を増強させてしまうかもしれない両刃の剣です。このように少量負荷試験で陽性の場合、また複数の食物アレルギーがあって除去をしているケースでは、専門の医療機関を受診して適切な診療を受ける必要があります。

     また最近は、ごく微量を継続的に摂取することで閾値が上昇することもわかってきています。陽性となる場合でも、症状が出る量の10分の1、100分の1でも、食べ続けるとその後閾値が改善することが示されています。ただし、これは専門医療機関で行う必要があり、並存するアトピー性皮膚炎、ぜんそく等もしっかり包括的な診療のできる施設で評価をしていただければと思います。

    食物アレルギー診療の未来は明るい

     最新の話題としては、2024年10月に欧州免疫アレルギー学会より食物アレルギー診療ガイドラインが公開されました。治療管理のまとめとして、栄養管理、心のケア、エピペンなどの緊急時対応、免疫療法の四つが柱として書かれています。経口免疫療法としては主にピーナッツ、鶏卵、牛乳について大規模介入試験があり、非常にエビデンスレベルは高いものの、海外では閾値を超えた脱感作状態を維持して食べ続ける方法で、これは現在の日本のガイドラインでは推奨されていません。というのも、アナフィラキシーを含めたアレルギー症状を経験したり、好酸球性消化管疾患を起こす危険性もあると報告されているためです。
     また治療薬としては、海外で抗体製剤のオマリズマブが大規模臨床試験の結果を経て食物アレルギーへの適用を拡大しました。長年ぜんそくの治療薬としては使用された経験がありますが、実は、古くから食物アレルギーに対する効果が期待されていました。
     ニューイングランドジャーナル2024年の研究成績を少し紹介します。ピーナッツアレルギーがある主に小児の約170名を対象にランダム化比較試験を行いました。実薬群ではオマリズマブを16~20週間投与しました。開始前は100mgの微量で症状が出る方でも、約67%が約2.4g、3粒ほど食べられました。もっと少ない量だと、さらに食べられる割合が増えています。併発しているカシューナッツ、卵、乳のアレルギーについても同様に閾値の増加がみられ、さまざまな食物アレルギーに対しても効果がありました。現時点では食べて治すことは一緒に行っておらず、薬を中止するとまた戻りますが、もしかするといずれ、重篤なアナフィラキシーで悩まれている方はこういった薬剤を併用しつつ、少量を安全に食べていくことで、より治りやすくなる時代が来るのかもしれないと想像します。残念ながら、日本では食物アレルギーに対してオマリズマブの適用はありませんが、今後、世界的な流れ、趨勢を見て、適用拡大の機運が高まるかもしれません。

    食物アレルギー疾患をもつお子さまのために

     最後に、おすすめの本を1冊、紹介します。『アレルギー入園・入学マニュアル』(編集:NPO法人ピアサポートF.A.cafe)※という読み聞かせの絵本です。ぜひ活用してください。
    ※https://www.facafe.org/support/educational/famanual

    (2024年11月10日開催 日本アレルギー友の会創立55周年記念特別講演会より、採録 庄田)

    講演内容の動画を配信していますので、メールでお申し込みください。

    第640号の他の記事

    創立55周年 常任顧問からの祝辞
    設立55周年おめでとうございます。

    あたご皮フ科副院長
    日本臨床皮膚科医会会長
    東京逓信病院皮膚科客員部長
    当会常任顧問 江藤 隆史

     このたびは、設立55周年を迎えられ、大変おめでとうございます。私が現在会長を務めている日本臨床皮膚科医会は、  | 続きを読む |

    花粉症・アレルギー性鼻炎部門講演
    アレルギー性鼻炎の重症化ゼロを目指して

    千葉大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学教室准教授 米倉 修二先生

     アレルギー性鼻炎の重症化ゼロを目指して、というタイトルでお話をさせていただきます。今、耳鼻咽喉科の学会では、  | 続きを読む |