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    第640号

    アトピー性皮膚炎部門講演
    アトピー性皮膚炎の病態と治療

    日本医科大学皮膚科大学院教授 佐伯 秀久先生

     最初にアトピー性皮膚炎の病態について簡単に説明した後、最近公表されたアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024に基づく治療についてお話ししたいと思います。

    アトピー性皮膚炎の病態

     アトピー性皮膚炎の定義に、まずかゆみがあります。かゆみは必発症状です。かゆくてかくと、皮膚からTSLPというサイトカイン(タンパク質)が出ます。また、表皮や真皮にある細胞からCCL17/TARCというものが出ます。そうすると、炎症局所にTh2細胞が集まってきます。これがIL-4やIL-13とよばれる2型のサイトカインを出し、炎症が起きますし、また、このTh2細胞はIL-31というサイトカインも出します。これはかゆみに非常に重要な役割を果たしているサイトカインで、かくとまたかゆくなる悪循環が起きるといえます。IL-4やIL-13という2型のサイトカイン自身も、かゆみを感じる神経であるC線維に直接働きかける、あるいはIL-31によるかゆみを助長するというようなこともいわれています。ですから、アトピー性皮膚炎においてはこのIL-4、IL-13、IL-31というサイトカインが非常に重要だといえます。このほかにもTh22細胞というのがIL-22というのを出すことが知られており、慢性湿疹(苔癬化)などに重要な役割を果たしているといわれています。こういった2型のサイトカインあるいはIL-22は、フィラグリンの発現を抑えます。フィラグリンの発現が落ちると、バリア機能が落ちてアレルギーが起きやすく、ここでも悪循環が生じているといわれています。

    診療ガイドライン

     アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024が10月に出ましたが、これはガイドライン2021年の改定版です。まずガイドライン2021がどんなものだったかを説明したいと思います。
     アトピー性皮膚炎の治療をする上でいちばん大事なのは、皮膚の炎症をできるだけ速やかに完全に抑える寛解導入療法といわれているものです。この療法で重要なのは抗炎症外用薬です。先ほどのぜんそくの講演では、ステロイドの吸入療法が最も基本になるというお話がありましたが、アトピー性皮膚炎においてはステロイドの外用療法が基本です。局所的なステロイドの外用療法が中心なので、全身的な副作用は非常に少ないというのが特徴です。
     ステロイド以外にも抗炎症外用薬があります。それまではタクロリムス(商品名プロトピック)がよく使われていましたが、2021年のガイドラインでは、デルゴシチニブというJAK阻害外用薬が出てきたというのが特筆すべきことです。
     皮膚が良くなったら、できるだけその良い状態を長持ちさせる、これが寛解維持療法というもので、皮疹が良くなっても週1回から2回は抗炎症外用薬を塗って、それ以外の日は保湿剤などでスキンケアをするのがプロアクティブ療法とよばれるものです。アクティブになるプロ=前に、という予防的なやり方で、できるだけ良い状態を長く保つということが大事です。もし良くならない場合でもすぐに全身治療に行くのではなく、まずきちんとした外用治療ができているかを、あらためて確認することが重要です。たとえばステロイド外用薬は、1群から5群の強さの段階があり、重症な場合には強いステロイドを使いますが、塗る量が少ないとなかなか効かないので、適正な量を使っているかをきちんと確認することが必要です。
     それでもうまくいかない場合、難治状態に対する治療ということで、それまではシクロスポリンという免疫抑制剤を短期間服用する、あるいは紫外線療法などがメインでしたが、2021年のガイドラインではIL-4受容体抗体であるデュピルマブ、JAK1と2を抑えるJAK阻害内服薬のバリシチニブが出てきました。ここでデルゴシチニブ、デュピルマブ、バリシチニブの話をしたいと思います。

    ガイドライン2021の新薬

     一つめがデュピルマブ(商品名デュピクセント)です。IL-4の受容体のアルファサブユニットを抑える抗体で、IL-4とIL-13のシグナル伝達を抑える薬です。
     もう一度強調しますが、アトピー性皮膚炎の治療はあくまで抗炎症外用薬が基本です。8割から9割はそれで改善しますが、それでも良くならない場合、つまり中等症か重症の難治性の症状に対して、こういった生物学的製剤などの投与を検討するのが前提になります。
     EASIスコアはアトピー性皮膚炎の重症度を数値化したものですが、これが75%以上改善した(EASI 75、たとえばスコア10あった人が2.5以下になった)患者さんの割合を調べた試験(クロノス試験)があります。この試験は実臨床に近い試験で、ステロイド外用療法にデュピルマブの皮下注射を加える群とプラセボ(偽薬)の皮下注射を加える群を比較したところ、プラセボ群のEASI 75は23%ですが、実薬群のEASI 75は約65%から70%という結果で、非常に効果があるということがわかって保険適用されたという経緯があります。
     この薬が2018年に保険適用された時に、厚労省から最適使用推進ガイドラインというものが示されました。きちんとした治療を行っていても、たとえばステロイドの3群以上つまりストロングクラス以上を半年間塗っても一定の疾患活動性(EASIスコア16以上)がある場合に使う、ただし顔の症状がひどい場合、全体のEASIスコアが16でなくても顔や頭頸部のEASIスコアが2.4以上あれば使ってもいい、というのが、示された基準です。
     二つめがデルゴシチニブ(商品名コレクチム軟膏)です。これは外用薬で、2020年から使えるようになりました。この薬はJAK1、JAK2、JAK3、TYK2を抑えます。そうすると、IL-4、IL-13、IL-31以外にもTSLPやIL-22といったものをすべて抑えることによって、効果を発揮します。
     試験の結果、タクロリムス(商品名プロトピック)の0.1%成人用で皮疹スコアの変化がマイナス60に対して、デルゴシチニブがマイナス57ですから若干弱いですが、かなり近い効果が期待できる外用薬になります。2歳以上の小児の比較試験でも、やはり0.25%と0.5%の両方とも、プラセボに比べて効果が高いという結果が出て、2021年に2歳以上の患者さんに対して保険が適用されました。
     使う回数は成人で0.5%を1日2回。ただ1回の使用量は5gまでという制限があります。小児は0.25%を使いますが、症状に応じて0.5%を使ってもかまいません。ちなみに2023年1月から6カ月以上の小児の患者さんにも使えるようになりました。

     三つめがバリシチニブ(商品名オルミエント)です。JAK1とJAK2を特異的に抑える内服薬です。やはりIL-4、IL-13、IL-31以外にもTSLP、IL-22もすべて抑えることで効果を発揮します。
     臨床試験(単剤投与試験)の結果、EASI 75の達成率を見ると、プラセボが8に対して4mg群が24くらい、もう一つの試験ではプラセボが6に対して4mg群が21ということで確かに有効性が確認されて、保険適用となりました。
     やはり厚労省から最適使用ガイドラインが出されましたが、対象となる患者さんはデュピルマブと同じです。3群以上のステロイドを半年以上塗っても、EASIスコアが16以上というのが一つの基準です。ただ、この薬はJAK阻害内服薬なので、かなり注意して使わなければいけない薬です。全身的な副作用に注意して使うべき薬で、たとえば結核になっていないか、B型肝炎やC型肝炎にかかっていないか、また、JAKを抑えると血球系が下がってくる可能性があるため、血液検査も定期的にする必要があります。さらに、腎機能障害があると量を調整しなければいけないなど、デュピルマブのような生物学製剤に比べるとややハードルが高く、より注意して使わなければいけない薬といえるかと思います。

    ガイドライン2024の新薬

     2024年の新ガイドラインでは、さらに5つの新薬が加わっています。
     一つめはウパダシチニブ(商品名リンヴォック)です。これはJAK1の阻害薬で、バリシチニブと同じようにIL-4、IL-13、IL-31、TSLP、IL-22もすべて抑えることで効果を発揮します。単剤投与の試験結果では、EASI 75の達成率がプラセボで15~20%くらいに対して、30mg群は80%くらいとかなり高い効果が出ています。
     二つめがアブロシチニブ(商品名サイバインコ)です。これもJAK1を特異的に抑える内服薬です。単剤投与のEASI 75の達成率が、プラセボ12%に対して200mg群だと63%と、こちらもかなり高い効果が期待できます。先ほどのリンヴォックより多少弱いですが、デュピルマブよりも直接比較でより高い効果が示されています。ただこれも安全性に十分注意して使わなければいけない薬といえると思います。

     三つめがジファミラスト(商品名モイゼルト軟膏)という薬です。PDE4阻害薬といって、いろいろな細胞の中のサイクリックAMPの濃度を高めることによって、炎症を抑制する作用があります。炎症性のサイトカインを抑えて、かつ、抗炎症性のサイトカインをむしろ上げるというものです。小児の例では、0.3%や1%軟膏のEASI 75はプラセボに比べて有意に高いことがわかります。最初は2歳以上が適用でしたが、現在は3カ月児から使えます。基本は成人が1%、小児が0.3%ですが、小児にも1%を使用可能です。皮疹面積に応じて使うということで、塗布量の制限はこの薬にはありません。
     四つめがネモリズマブ(商品名ミチーガ)です。IL-31を抑える作用があり、かゆみ以外にも炎症を抑えるのではないかといわれています。臨床試験は60mgを4週間隔で皮下注射するもので、プラセボ群に比べて実薬群のほうが、かゆみが有意に軽減しています。発売された時の適用は13歳以上でしたが、現在は6歳以上に処方可能です。抗炎症外用薬を4週間以上塗って、かつ、抗ヒスタミン薬といわれるかゆみを抑える薬を2週間以上内服しても一定程度のかゆみがある方に使えるというものです。デュピルマブやJAK阻害内服薬はEASIスコア16以上が適用でしたが、この薬はEASIスコア10以上が適用ですから、皮疹がそれほどひどくなくてもかゆみがすごく強い方には使っていいということで、とくに痒疹結節といって苔癬化が狭い範囲にみられるような方には非常に効果が高いといわれています。
     最後が五つめのトラロキヌマブ(商品名アドトラーザ)です。IL-13だけを抑える抗体治療薬です。ステロイドの外用に対してアドオン効果をみた試験では、EASI 75がプラセボ35に対して実薬56ということで、有効性が認められて保険適用になりました。デュピルマブに比べると若干効果は弱いと思われますが、長く使っているとだんだん効果も出てくるともいわれています。

    さらに新薬の登場

     最後に、ガイドライン2024にもまだ記載できていませんが、新しい薬を二つ紹介します。
     一つはIL-13抗体のレブリキズマブという薬です。2024年1月承認で5月に発売されたもので、デュピルマブと同じくらい効果があるだろうといわれています。もう一つは芳香族炭化水素受容体調整薬で、タピナロフ(ブイタマークリーム)です。これは2024年6月承認で10月に発売された薬で、これらは今後どのような感じで使ったら良いかを検討していくということになるかと思います。
     ご清聴ありがとうございました。

    (2024年11月10日開催 日本アレルギー友の会創立55周年記念特別講演会より、採録 田口)

    講演内容の動画を配信していますので、メールでお申し込みください。

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