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    第647号

    食物アレルギー ―最近の管理と治療―①

    東海大学医学部総合診療学系小児科学教授 山田 佳之先生

    食物アレルギーの基本概念

     まず、食物摂取後に不調が出たからといって、必ずしも食物アレルギーというわけではないことは、みなさんご存じかと思います。たとえば、フグ毒、牛乳の乳糖不耐症、魚を食べた後にじんましんが出るヒスタミン中毒など、非アレルギー性の反応もたくさんあります。
     アレルギーとは免疫反応による症状です。免疫反応には、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を攻撃・排除する役割を担う、抗体ともよばれるタンパク質である免疫グロブリンが関与します。一般的に「食物アレルギー」といわれる症状は、とくに、この免疫グロブリンの一つであるIgE抗体が関与する即時型反応が多いことが特徴ですが、最近はIgEが関与しない症状も多くみられるようになってきています。
     今回は主に、この即時型IgE依存性食物アレルギーについてお話しします。多くは摂取後2時間以内の急性反応での発症を指し、じんましん、嘔吐、呼吸困難など、さまざまな症状が出現します。そのアレルギー症状が起こる要因は、食物を食べること、アトピー性皮膚炎が関連する反応、運動誘発性アレルギー(とくに小麦に多くみられる)などがあります。

    アレルギーの免疫学的しくみと発症メカニズム

     一般に、アレルギー反応は細菌やウイルスなどに対する免疫と同じように免疫反応の一つですが、体に対してあまりいいことをしないIgE抗体を作るような反応をいいます。体内でIgE抗体がマスト細胞に結合し、そこに食物などの抗原(アレルゲン)が反応して症状を引き起こします。ただ、IgEがあるからといって、アレルギー疾患をもっている、とはなりません。感作と臨床症状の有無を区別する必要があります。
     ここでいう感作とは、アレルゲンを異物として認識し、免疫反応を起こす準備状態であることを指します。最近では、皮膚からのアレルゲン侵入が感作の契機になることがわかってきています。これは皮膚炎や手荒れから食物アレルゲンが侵入することを意味しています。
     アレルギー発症には、もともともっている遺伝的素因(家族歴、皮膚バリア遺伝子異常などの遺伝的素因)、環境因子(花粉・食物アレルゲンの曝露、日照量、腸内細菌)、アレルゲンの存在(食物、ダニ、花粉など)という3要素が関与しているといわれています。つまりこれらの要素が存在しないと発症しないということです。

    小児科的視点におけるアレルギーマーチと年齢

     一般に、小児診療では、病気とその発症年齢が一致しているかどうかが重要です。食物アレルギーはどうかというと、乳幼児期に多い病気であり、離乳食開始後に発症しやすいという特徴があります。
     年齢とアレルギー疾患発症に関しては「アレルギーマーチ」という概念があります。食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、その後にぜんそく、そしてアレルギー性鼻炎へとアレルギー疾患が順に変遷します。
     乳児期は、卵、牛乳、小麦です。一般的に食物アレルギーといえば、この時期に発症することが多いため、アレルゲンとしてはこの三つを指す場面が多く、まず、この三つのアレルギー反応がないか診断します。
     幼児から学童期になると、小麦、ナッツ類へと原因食物の変化が多くみられます。運動誘発性アナフィラキシーの6割強は小麦が原因です。また、近年ではクルミアレルギーが急増しており、ナッツ類の中で最も頻度が高く、重篤例も増加しています。
     食物アレルギー全体の患者数をみてみると、成長とともに減少しますが、困っている人はどの年代でも存在しています。そういった背景もあり、法整備も進められています。
     日本においてアレルギー疾患全体をみても有病率が近年増加してきており、アレルギー疾患への社会的関心と支援体制強化の流れという社会的背景の中で、平成26年に「アレルギー疾患対策基本法」の制定が実現しました。
     適切な医療が受けられるように、アレルギー疾患医療提供体制の整備もさらに進めていく必要があります。

    (2025年6月8日 日本アレルギー友の会講演会より、採録 庄田)

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