ぜんそくは「症状がなければ良い」という病気ではない
ぜんそくの病型分類についてお話しします。以前から用いられているのは発症時期による分類で、たとえば、小児ぜんそく(小児発症・持ち越し型)や成人発症ぜんそくといったものです。小児ぜんそくは、90%以上がアレルギー型で、とくにダニアレルギーが多いのが特徴です。一方、成人発症の場合は、生活環境などの影響で発症する非アレルギー型が増えるとされています。
近年では、生物学的製剤の使用を意識した、2型炎症か非2型炎症かという分類が主に使われています。2型炎症とは、アレルギー性炎症や好酸球性炎症に深く関わる「2型サイトカイン(細胞から分泌され情報を伝達するタンパク質)」が関与している病態のことです。この炎症が強いかどうかは、血液の好酸球数や呼気中の一酸化窒素濃度(FeNO)、特異的IgEなどで評価します。
ぜんそくの病態は、氷山にたとえられることが多いです。ぜんそくといえば、ゼイゼイヒューヒューする、息切れがする、咳が止まらないといった症状が中心で、そこだけが注目されがちです。しかし、なぜぜんそくの症状が起こるのかというと、それは当然、空気の通り道が狭くなるからです。では、なぜ空気の通り道が狭くなるのかというと、その大元には慢性の気道炎症が起きているからです。
ぜんそくは「症状がなければ良い」という病気ではなく、根本にある気道閉塞や気道過敏性、そしてそれらを引き起こしている気道炎症をしっかり抑えて初めてコントロール良好といえるのです。
感作のあるアレルゲンを体に入れない環境整備を
1型アレルギーについてお話しします。アレルギーとは、アレルギー反応を起こす物質に対して体が特異的IgE抗体を作ることで反応する現象です。アレルギー特異的IgEは、アレルゲンの立体構造に合わせて作られる免疫物質で、アレルゲンが最初に異物と認識されると体内で作られるようになります。これが感作であり、この段階ではまだ症状は出ません。しかし、感作が成立した後、再びアレルゲンが体内に入ると、免疫反応が誘発され、初めて症状が出現します。血液検査では感作の有無はわかりますが、実際に発症しているかまではわかりません。
アレルギーのしくみとしては、マスト細胞にアレルゲンの抗体がくっつきます。抗体がくっついたところにアレルゲンが入ってきて、その抗体にアレルゲンがくっつくと、細胞内に刺激が伝わり、ヒスタミンやロイコトリエンなどのケミカルメディエーターが放出されます。これがアレルギー炎症の元となり、症状が現れます。
治療としては、抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬がありますが、量が多いと中和しきれない場合があります。そのため、より根本的に、IgE自体を中和したり産生を抑制したりする生物学的製剤も使われるようになっています。さらに重要なのは、感作が成立しているアレルゲンを体に入れない環境整備や生活指導であり、薬だけに頼らないことです。薬だけ使えばいいというものではない、というところがアレルギー診療の難しさであり、一方で環境整備も合わせてうまくできれば、劇的に症状が改善する要素があるということが言えます。
ダニ対策は寝具に掃除機をかけることが効果的
ぜんそくを悪化させる5大吸入アレルゲンは、ダニ、花粉、真菌(カビ)、ペット、昆虫とされています。日本人の成人ぜんそく患者は、ダニ70%、スギ70%、スギ以外の花粉30~40%、カビ20~30%、動物30~40%、昆虫40~50%と、一般的な方々と比べて、何かしらのアレルゲンに反応する人が多いことが報告されています。日本はとくにダニが多い環境であり、小児ぜんそくでは最重要の原因です。ただし、成人発症の場合は、カビやペットが要因というのはありますが、ダニだけが発症原因になることはあまり報告されていません。しかし、ダニアレルギーのある人が大量のダニを吸いこむと悪化するのは確かです。発症要因ではないかもしれませんが、悪化要因であることは間違いないということが報告されています。環境整備としては、布団の対策が最も重要で、寝具に掃除機をかけるのが効果的です。
(2025年6月8日 日本アレルギー友の会講演会より、採録 増谷)
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