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    第641号

    新時代を迎えたアトピー性皮膚炎治療②

    ひふのクリニック人形町院長・東京慈恵会医科大学客員教授 上出 良一先生

    入口戦略と出口戦略

     アトピー治療において重要なのは、赤ちゃんの時にしっかりと治し、アレルギー感作を起こさせない「入口戦略」と、治りきっていない成人患者さんを救う「出口戦略」です。ステロイドに依存せず、より簡便な治療ができるようになった一方で、患者さんは長年の辛い思いから、ウィズ・アトピーと諦めがちです。しかし今は、もっと良い状況にできます。全身治療を考慮すべきです。生活改善やストレス管理といった行動変容も重要です。今は、開業医もこれらができる時代になっています。

    現在の薬

     現在使われている主な薬としては、注射薬はデュピルマブ(デュピクセント)が最初です。2018年に出ました。IL-4およびIL-13を抑えます。アドトラーザはIL-13だけを抑えます。2週間ごとにしか打てないことに注意が必要ですが、イブグリースもあります。ミチーガはIL-31を抑制して、かゆみを改善するのに優れています。
     新薬は高いので、昔からあるシクロスポリン(服用)で同じように抑えることもできますが、できない場合は、高価な新薬にせざるをえない場合もあります。私は「JAK三兄弟」と呼んでいますが、かゆみによく効く服用のJAK阻害薬、バリシチニブ(オルミエント)・ウパダシチニブ(リンヴォック)・アブロシチニブ(サイバインコ)があります。
     作用機序で言うと、デュピルマブなどの注射薬は、細胞外で働く抗体製剤です。防弾チョッキのような役割を果たします。一方、刺激が細胞に入った時に、その刺激に対して先に進むのを抑えるのがJAK阻害薬です。
     使用できる年齢は低下しています。デュピルマブは6カ月の赤ちゃんにも使用可能です。バリシチニブは2歳から。2歳児の服用は容易ではないですが、6歳頃には服用できます。ほかの薬もいろいろとあるので、そこを踏まえながら、治療の中期的計画を立てる必要があります。

    治療の目標、レスステロイド

     ガイドラインでは、治療の目標は、症状がないか軽微で、薬物療法があまり必要ない、つまりほぼ治癒に近い状態とされています。しかし、実際は急な悪化が起こらない安定した寛解状態が重要であり、患者さんが望むところです。
     免疫学的記憶といいますが、長年の病気によって皮膚が厚くなってしまい、ゴワゴワして、再発しやすくなります。そのため、新しい治療法でしっかりと抑え、ステロイドへの依存を減らして、非ステロイド薬でレスステロイドが可能になってきています。また、かく癖に対しては別のアプローチが必要です。

    TARCについて

     病気の重症度をみるには、自覚症状や精神状態を測る質問票を利用したり、症状を目で見て触診したりすることも大事です。「見ない、触らないでステロイドを処方」はいけません。TARCという採血検査では、IgEなどを測ります。
     TARCはリンパ球を皮膚にリクルートする物質です。TARCの数値が高いのは、戦いの準備ができている状態で、平穏に見えても戦争の可能性があることを意味します。TARCが安定して低値というのが重要で、TARCは病状の安定性の指標と考えています。
     寛解には質があり、TARCが低ければ、本当に良くなっていると安心できます。これが可能なのは、現在デュピルマブ(デュピクセント)だけです。ほとんどステロイドを使用せず、最低2週間ごとに打てば、良い状態が続きます。プロアクティブ療法といえます。患者さんは安定した状態を維持できるので、やめたくないと感じる場合が多いと思います。
     つまり、成人の長期寛解が可能になったわけです。シクロスポリンの服用や脱ステロイドをやってきたが良くならない患者さんが、初診で注射薬にしたところ、2週間で良くなり、5年後にはほぼ治った例があります。TARCの値は一気に低下し、安定します。治療を続けることで、多くの患者が良好な結果を得ており、治療をやめた場合でも一定期間は良い状態が保たれています。

     

     【参考】上出先生は「ひふのクリニック人形町」というYouTubeチャンネルを運営されており、
     Zoomでのアトピーカフェも開催されています。ご興味のある方は、ホームページにアクセス
     してください。
     https://atopy.com/

    (2024年5月26日 日本アレルギー友の会講演会より、採録 平野)

    講演内容の動画を配信していますので、メールでお申し込みください。

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