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    第600号

    アレルギー研究の進歩

    東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター 分子遺伝学研究部教授 玉利 真由美

     「あおぞら」600号特別記念号の発行、おめでとうございます。長年の会員の方々の篤実な活動に心より敬意を表します。また今回、寄稿する機会をいただき、関係者のみなさまに深く感謝申しあげます。

     私自身も幼少期からアトピー性皮膚炎で病院に通い、中学生になり猫を飼い始めた頃からアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎がひどくなりアレルギーとは長い付き合いとなります。

     一方、近年の免疫学、ゲノム医科学の進歩は目覚ましく、アレルギーの病態解明が進んできております。これらの知見は患者として腑に落ちることもたくさんあり、それらを知ることにより、私自身アレルギーのコントロールも上手にできるようになったと思います。ぜひ、みなさま方にも最近の研究成果の一端を知っていただけたら幸いです。

     免疫学領域では、病原体への免疫応答として、1型(細菌やウイルス)、2型(寄生虫や昆虫咬傷)、3型(細菌やカビ)の3種類の免疫応答機序が解明されてきました。アレルギー炎症には主に2型免疫応答(2型炎症)が関わると考えられています。細胞としては2型自然リンパ球(ILC2、日本の研究グループが発見しました)や2型ヘルパーT細胞(Th2)が中心的な役割を果たします。これらの細胞が活性化すると、インターロイキン(IL)―4、IL―5、IL―13などが放出され、炎症が起こります。

     また、アレルギー炎症のメカニズムとして、“バリア破壊”に加え“抗原”が存在することが感作や炎症の成立に重要であることもわかってきました。寄生虫や昆虫咬傷は物理的な“バリア破壊”を生じます。これらのことは、アレルギー疾患の方々にとって、環境との境界である皮膚、粘膜バリアを健全に保つことの重要性を示唆しています。

     2型炎症については、それらに関わるサイトカインをターゲットにした生物製剤も臨床で活用されてきています。また、既存の薬剤、グルココルチコイド(ステロイド剤)は2型細胞の中心的役割を果たすTh2やILC2をアポトーシス(細胞死)に導くこともわかっています。

     私はこれまで免疫アレルギー疾患のゲノム解析(体質の研究)を行ってきました。この研究は、ヒトのゲノム配列について、疾患群とコントロール群とで比較し、差のある部分(疾患関連ゲノム領域)を同定し、その近辺にある遺伝子群の中から、疾患の関連遺伝子を探すもの(ゲノムワイド関連解析)です。ぜんそくのゲノム解析により、小児発症ぜんそくと成人発症ぜんそくにおいて多くのゲノム関連領域の重複があること、IL33、TSLP、GATA3など2型免疫応答に重要な遺伝子がそれらの領域に存在し、小児・成人発症ぜんそくに共通して関連していることがわかってきました。

     また、アトピー性皮膚炎のゲノム研究では、皮膚の保湿因子であるフィラグリンの機能が失われるような変異が最も強い遺伝要因であること、次に強い遺伝要因は2型免疫応答のサイトカイン遺伝子のクラスターを含む5q31.1領域であることなどがわかってきています。

     これらの遺伝要因が実際に、どの細胞で、どの遺伝子に、どの方向性で(過ぎたるのか及ばざるのか)アレルギーの炎症につながっていくのかについて、現在、精力的に研究が進められています。

     このようにアレルギーのメカニズムが解明されると、どのような患者さんにどのような薬剤を、どのような時期に使用するのがいいのか、など適切なバイオマーカー(病気の勢いなどを知る検査)を使い、さらに上手にアレルギーをコントロールできるようになると思います(最適医療、Precision Medicineともよばれます)。

     私の叔父は10歳の時にぜんそくで亡くなったと聞いていますが、私の家族もアレルギーをもつ人が多く、遺伝要因の重要性を感じています。しかしながら寄生虫の多い時代を生き延びた祖先の大変さを思うと、この免疫応答が命を守ってくれて自分の命につながったのかもしれない、とも感じます。

     アレルギーを免疫応答の体質ととらえて理解を深め、バリアを健全に保ち、炎症を抑えて上手にコントロールしていくことが大切だと思っています。

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