気管支ぜんそく・アトピー性皮膚炎の患者の現状を把握するため、多くの方にアンケートを実施しました(アンケート結果はこちら)。
その結果を踏まえ、気管支ぜんそく・アトピー性皮膚炎の現状や治療の問題点を患者の立場から考え、治療の未来を語る座談会を行いました。アレルギー疾患をもつことの辛さや問題点を社会に伝える充実した座談会とすることができました。
1 アトピー性皮膚炎患者の現状
アトピー患者が辛いと思っていること
●身体面
丸山(進行) 身体面で辛いことのアンケート結果では、かゆみが断トツで96%の人が挙げていますが、かゆみのどのようなところが辛いですか。
田口裕 全身にかゆみが出ることです。頭皮がかゆく、フケみたいに出てくるのが辛いですね。局部も容赦なくかゆくなりますが、人前でかくわけにはいかないので非常に辛いです。
有岡 くっつき虫みたいにかゆみが離れなくて、かいてもかいてもかゆみが取れない感じです。
巴麻口 ダニが這っているようですよね。
荻野 体の中から湧き出るようなかゆみ、とめどなくあふれるようなかゆみという表現をよく使います。かくほど心もすさんでいき、罪悪感がありながらもかいてしまうのがいちばん辛いです。
尾上 極悪化の時は体の中までしびれる感じで、浸出液も出て、夏でも寒気があったり、かいた部分の痛みもひどかったです。
丸山 みんなかいてはいけないとわかっていても、かかざるをえないくらい我慢できない、中からあふれ出してくるかゆみがアトピーにはあるということですね。
乾燥はどうでしょうか。保湿すればいいのではないか、と普通の人には思われがちですが、乾燥のどのようなところが辛いですか。
巴麻口 乾燥して皮がむけてポロポロ落ちて、かゆくなって、赤みが出てきて…
荻野 それを見て、精神的にきますよね。気持ち悪い、こんなにかいてしまった、見られたくないと思い、人の視線が気になってしまい、ひどい時は黒い服が着られなかったです。
有岡 私も黒い服は避けていました。冬は寒いですが体温が上がるとかゆくなるので、服の調整も気を使わないといけませんし、乾燥して指先が割れることもよくありました。
丸山 汗で悪化し、乾燥するとパリパリになり、ワセリンとか保湿剤をベタベタに塗っているのに乾燥するってどういう意味?と普通の人には理解できないと思いますね。
汗で悪化することについてはどうでしょうか。
荻野 私は汗で首の後ろがボコボコになっています。汗をかかないようにしようと、なるべく部屋の中にいて移動は車で、と涼しく過ごすことばかり考えてきました。
巴麻口 汗が思うように出ないので、体の中に熱がこもってしまい、体温が上がるとうわーっとかゆくなって辛かったです。
有岡 丹毒はしょっちゅうなっていました。エアコンのない場所で仕事すると耳の後ろなどをかいてしまい、そこから感染して赤く腫れあがりました。傷口が化膿して抗生物質を飲みながら暑い部屋で高温にうなされ、腫れが引くまで待つ生活を何年も送っていました。
丸山 汗で悪化というとあせも程度に思われやすいですが、実際は皮膚のバリア機能がないから感染症を引き起こし、ひどい状態になることもあるので辛いですよね。
●精神面
丸山 続いて、精神面です。アンケート結果でいちばん多いのが「他人の視線」でした。どういう視線が辛かったですか。
巴麻口 皮膚が赤黒かったのでかわいそうとか、気持ち悪いと言われました。
荻野 私がいちばん辛かったのは、久しぶりに会った友人に「大丈夫?」と言われ、人が心配するほどの状態のひどさを再認識させられたことです。電車の窓ガラスに自分の姿が映るのを見るのも嫌でした。自分で見るのも他人に見られるのも嫌でした。
田口裕 床屋さんでバリカンを入れてもらうと、頭皮の傷の部分にガッと当たり、理容師さんに絶句された経験があり、非常に嫌でしたね。
丸山 私は電車の中で、隣の人に手を避けられたことがあります。他人にうつる病気だと勘違いされショックでした。外見に症状があるということは、アトピーの場合すごく辛いことですね。
症状があることで自分に自信がもてないということはありますか。
荻野 何に対しても自信がもてず、夢も希望もなかったです。なるべく皮膚を見せないように工夫していました。
有岡 傷があると痛くて海に入れず、汗をかくからスポーツもまともにできなかったです。自分で自分の可能性を殺してしまいますよね。
丸山 確かにいろいろできないことがあると、何もできない、生きていてもしょうがない、という絶望的な気持ちになりますよね。
巴麻口 かゆいから、何をやっても集中力が続かないです。
丸山 「毎日のスキンケアの継続」や、「悪化と軽快を繰り返す不安」もアンケート結果では多いですが、みなさんもありますか。
有岡 毎日、四六時中、365日感じていましたね。
荻野 ステロイドをちゃんと理解して使えていない人が多いのかもしれないですね。私も汗で首の後ろがボコボコになっていますが、ステロイドで良くなることを理解しているので悪化と感じていません。それを悪化ととらえてしまう人が多いのかなと思います。理解して治療することが浸透していないのかなと思いました。
田口裕 ステロイドを使って治したら、それ以降は使わなくてすむ病気でありたい、という願望があるのだと思います。だから良くなると塗るのをやめてしまい、また悪くなるというのを繰り返してしまうのかなと思います。私はステロイドを正しく使い、継続して使う必要があることを理解すべきだと思います。
尾上 同感です。一時期、自分もいい加減に塗っていて良くならないとやめてしまったこともあったので。
●日常生活
丸山 日常生活での辛いことについては、いかがでしょうか。
田口初 暑いからかゆくなる辛さだけでなく、日焼けをしないようにしているので、夏のレジャーはあまり楽しめないですね。
尾上 かゆくて眠れないことがあるのが今でもいちばん辛いことですね。
丸山 衣服の素材の制限や睡眠不足、ストレス、さまざまなことに気をつけなければいけないことが辛いですよね。
有岡 朝から晩まで四六時中、肌のケアのことを考えなくてはいけないので、総時間で人生の何分の一があてはまるのか、そんな勢いですよね。
田口裕 寝ている時に無意識にひっかいているので、衣服や寝具が血液で汚れているのを見て非常に嫌になります。洗濯しても落ちない場合もあります。血液の汚れを見て、またやってしまったとげんなりします。普通の人にはわからないと思いますが結構精神的に辛いですね。
田口初 私は、学校生活で給食やおやつを出されても当たり前に食べることができなかったので、まわりと同じスタートラインにすら立てない状況が嫌でした。
●社会生活
丸山 アトピー症状のために仕事や勉強に支障が出ることについては、いかがでしょうか。
有岡 不規則な生活で皮膚が悪化すると仕事への支障になりますね。
丸山 私も一晩中かきむしって眠れなくて、一睡もできないまま仕事に行ったことがあります。集中できないですよね。
田口裕 先ほどもありましたが、学生生活でほかの子と同じことができないので苦しいというのはあると思います。小学生くらいだと、自分に都合の悪いことは言わなかったり、強がってしまうので、大人たちがもっと気を配らないといけないと思います。
巴麻口 会社の制服は通気性が悪く、着るとかゆくなりました。夜も眠れていないから、職場の人にだらけていると思われることも辛かったですね。
池上 通院に時間がかかり、自分の自由な時間がなく、やりたいことができなかったです。普通の人は若いうちは病院に通ったりしないので、アトピーのために通院時間を割かなければいけないというのは、結構支障があることだと思います。
丸山 社会生活については、症状があることでいじめがあったり、働けない人がいるということも伝えていく必要があると思います。
治療の問題点
丸山 「今の治療に満足していますか」のアンケートについて、満足している人が多いのは標準治療をしているからだと思いますが、標準治療をしていても症状が良くならない人がいる現実について、いかがでしょうか。
先生の言う通りに塗っているのになかなか良くならない、処方薬だけで使い方の説明がない、先生がわかってくれない、という人もいますが、いかがですか。
巴麻口 医師からの一方的な説明だけで、患者の不安な気持ちまで聞いてくれないですね。
有岡 混んでいる時は流れ作業のようでした。何も言わないと前と全く同じ薬が出てきたり、忙しそうなそぶりが見えて、やりとりに不満がありました。
尾上 ある程度状態がいいと塗るのをサボってしまう面はあると思うので、自分がしっかりやらなくてはいけないと思っています。
丸山 次にステロイドですが、ステロイドは根本的な治療じゃないので使いたくない、という人が多いですが、いかがでしょうか。
昔は、脱ステロイドの先生や民間療法の人が怖がらせて脱ステをする人が多かったですが、今はステロイドを塗って悪化したとか、ステロイドを塗っても治らないと思って脱ステをする人が多いような気がしています。
尾上 当時は塗り方がいい加減だったのもありますが、塗っても良くならなかったので脱ステをしました。結局4年間脱ステしてもだめで、標準療法で塗らないとだめだと認識しました。
丸山 先生がちゃんと塗り方を指導しないと、塗っても効かないと思ってしまいますね。
石塚 以前はステロイドをうまく活用できる先生もいなかったと思います。20年前と比べるとガイドラインもできて、フィンガーチップユニットなど使い方もできたおかげで、ステロイドがより効くような使い方ができるようになってきたとは思います。
丸山 患者の悩みでは、治療の長期化や、良くなったり悪くなったり、毎日薬を塗らなきゃいけないなどありますが、いかがでしょうか。
田口裕 ステロイドを長期的に使うと確かに皮膚が薄くなり、毛細血管が浮き出るなど、危険な薬ではないですが副作用はありますよね。
巴麻口 いつになったら良くなるのだろう、良くなってもまた悪くなったらどうしよう、この繰り返しを一生続けないといけないのか、と思いました。
有岡 標準治療と言いつつ悪くなることもあるから、これが標準なのかと思う時はありますね。
丸山 結局治療が長期化する実態は変わらないと思います。標準治療ができても良くなっていない人もいることを患者自身が伝えていくべきですよね。
医師との関係
丸山 新薬についてです。「軽症なので必要ない」との主治医の判断で、新薬について説明された人が少ないですが、いかがでしょうか。
田口初 私の症状からは必要ないと判断されていると思いますが、自分だけで情報を得るのは限界があるので、新薬があったら情報は知りたいですよね。
石塚 私も先生から新薬の説明をされたことはないです。自分で情報を仕入れていかないといけないのか、よくわからないです。
丸山 患者が治療に関する情報を理解・活用できる力(ヘルスリテラシー)というのがあります。先生が治療の選択肢を用意し、自分の生活や生き方に合わせて患者本人が治療の選択をするために、医師からの情報提供は必要だと思いますね。
治療費の負担については、外用薬だとだいたい月3,000円以内かと思います。新薬を使うと2万、3万となりますが、いかがですか。
巴麻口 漢方薬の煎じ薬は保険がきかないので高いですね。特殊治療は1万円を超えてきます。
有岡 私の場合は新薬を使っても健康保険がありますので3万円以内です。
丸山 診療時間については、5分くらいがいちばん多いようですが、いかがですか。
有岡 再診だったら5分あればいいと思います。
丸山 体を見せただけで終わってしまうので、処方の都度、塗り方など何回も説明してほしいですね。
荻野 私は先生が実際に塗ってくれたことがあり、言葉での説明より実践的な説明がいちばんわかりやすかったです。
田口裕 先生から説明を引き出すためにこちらからのアプローチも必要かなと思います。
丸山 理想としては、説明内容を先生に紙に書いてもらい、後から何回も見直せると、忘れても安心して治療できるのでいいと思います。
2 コロナ禍での対応
患者として辛かったこと
丸山 コロナ禍で大変だったことは、手荒れとマスクがいちばん多いですね。
巴麻口 マスクの紐が耳に当たってかゆくなります。会社の支給品でないとだめなので、今はしんどいです。
荻野 スーパーなどの入口でのアルコール消毒は、やらないといけない空気があり、少量だけ出してやっています。しみるので大変です。
田口初 いちばん手荒れがひどいので、アルコール消毒をすると焼けるような痛みがあり、叫んでいます。お店の入口で店員さんがアルコールスプレーを構えていると断れません。
丸山 コロナ禍だから仕方ないとはいえ、普通の人には想像できない辛さがあることを伝えていきたいですね。
3 治療薬の変化 ―ステロイドから抗体製剤へ―
新薬を使うことでの患者のメリット
丸山 新薬を使ってどのように変わりましたか。
有岡 新薬の効果が出るまで1カ月くらいかかりましたが、生活が本当に変わりました。暑くてもかゆくならない、傷も9割方ありません。夜眠れるし汗もかけます。ここまで落ち着くなら月2万かかろうが全然苦じゃないと思えるほどです。
池上 3年間打っていますが、保湿感がしっかりあります。ステロイド使用量が激変し、保湿剤だけですむようになりました。長年のステロイドで皮膚が薄く、紫斑ができやすく萎縮している部分もありましたが、それも良くなってきました。
丸山 使用前のかゆみを10とすると、2~3くらいにはなります。熟睡できるから朝から充実した活動ができるし、保湿剤だけ塗ればすむようになったのでスキンケアもすごくらくになりました。
これからの新薬に期待すること
丸山 これから発売される新薬はどのような治療になっていくといいと思いますか。
田口初 値段が安くなるだけでも気軽に使えます。
尾上 錠剤がいいですね。
田口裕 副作用が少ないことですね。
田口初 絶対に荒れさせたくない時に打っておけばいいとか、そういった使い方ができたらいいなと思いました。
池上 こうしてほしいという意見が患者から言える治療になっていくといいと思います。
丸山 今でも、就職や結婚式のために一時的でも良くする方法はあるみたいですね。自分のライフスタイルに合わせて使えるようなものや、値段が安く誰でも使えるものがいいですね。
4 患者の未来と希望 ―社会がどうなっていくのが良いのか―
丸山 新薬ができてもアトピーがなくなるわけではないと思いますが、アトピー患者が幸せに生きるためには、どういう世の中になっていくといいと思いますか。
池上 患者が安心して暮らせる、働ける、子育てできる、そんな社会の構築と、どうやって周囲が理解してくれるかを考えていきたいです。
尾上 間違った治療に入りこまないようにできるといいですね。
田口初 自分に何が合っていて、何が合っていないのかわからないまま治療を続けていることが辛いので、それぞれの体質に合った治療ができるような診断チャートなどがあるといいなと思います。
有岡 AIで自分に合った治療が選択できたらいいですね。
丸山 遺伝子解析などでオーダーメイド医療もあるので、アトピーにもあるといいですね。
田口裕 症状があっても周囲を気にしないでいられる社会になってほしいと思います。
荻野 精神的に頼れる場所、患者同士のつながりをもっとネットなどでできるといいと思います。
石塚 私たちもアトピー以外の病気のことを理解し、認め合うことでアトピーの人も生きやすい社会につながる気がします。
巴麻口 アトピーでも普通に社会生活が送れるような支援がほしいなと思います。
丸山 アトピーで引きこもりになっている方もいるようですし、みんなと一緒に普通に働いたり、子育てしたり、そういうことができる世の中になるといいですね。
(採録 石崎)