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    第600号

    「あおぞら」600号に寄せて

    京都府立医科大学大学院医学研究科皮膚科学教授 加藤 則人

     「あおぞら」が600号とのことで、心からのお慶びと、これまでの日本アレルギー友の会の方々のご尽力に敬意を表します。

     私が皮膚科医になって32年になります。当時はアトピー性皮膚炎の発症や増悪のメカニズムが明らかでなく、学会では表皮バリア機能の異常をアトピー性皮膚炎の主因とする「バリア異常派」と、食物や環境中のアレルゲンに対するアレルギーが発症の根源と考える「アレルギー派」が激しい論争を繰り広げていました。治療法についても、医師の間でコンセンサスが得られていないため、患者さんは医師が提案する治療に不安を抱くなど、混乱があった時代でした。

     アトピー性皮膚炎のメカニズムについては、近年の研究の進歩によって、皮膚のバリア機能低下や、アレルゲンに対してアレルギー炎症を起こしやすいアトピー素因という遺伝的な素因を背景に、種々の悪化因子が加わって慢性に皮膚炎が生じる疾患で、とりわけ皮膚炎の悪循環による難治化、慢性化が重要なことがわかってきました。また、入手可能で最良の科学的根拠に基づき、一人一人の患者さんの臨床状況や価値観などに配慮した医療を行うことを意味するEvidence-Based Medicine(EBM)が普及し、グローバルなコンセンサスを基にした診療ガイドラインが普及してきました。

     「あおぞら」は、アトピー性皮膚炎を含むアレルギーで悩む方々に、これらの科学に基づいた情報を長きにわたって届けてこられました。また、患者さんが悩んでいる声、そしてその悩みを日本アレルギー友の会のみなさんとともに乗り越えていかれたこと、などを「あおぞら」を通じて知ることは、私にとって常に大きな学びであり、時に深く自省し、また時に目頭を熱くさせながら、読ませていただいています。

     さて、アトピー性皮膚炎が起こるしくみに関する理解が進んだことに伴って、新しい治療法の開発が進んでいます。

     最近使用できるようになったインターロイキン4とインターロイキン13というアトピー性皮膚炎の炎症やかゆみに重要な物質の働きをブロックするデュピルマブという抗体の注射薬や、さらに幅広くアトピー性皮膚炎の炎症やかゆみに関係する物質の働きを制御するヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤の塗り薬や飲み薬に加えて、これからも数多くの新たな治療法が登場する見込みです。安全性に最大限に配慮しながら、これまでの治療法と新しい治療法の長所を活用して、一人でも多くのアトピー性皮膚炎の患者さんの症状が軽快していくことを願います。

     アトピー性皮膚炎をはじめとする皮膚疾患では、医師による皮疹の程度や面積に基づいた重症度の評価と、患者さんのかゆみなどの自覚症状や生活の質への影響の程度は、時に一致しません。私たち医師が目の前の患者さんの皮膚の状態を見て「良くなったな」と思っても、患者さんのかゆみが思ったほど軽快していないこともあります。

     アトピー性皮膚炎の患者さんが、アトピー性皮膚炎のために困っていること、辛い思いをしていること、生活の中で支障を生じていることなど、患者さんの負担をこれまで以上に重視し、それらを軽減させることを治療の最大の目標にすべきであるという考えが、世界中で広まっています。

     また、具体的な目標を定めて、その達成に向けて治療をするTreat to Target(T2T)という考えが、慢性疾患の治療で広まっています。日本アレルギー友の会の方々には、T2Tをアトピー性皮膚炎の治療にも適用するための十数カ国による会議にもご協力いただき、今年の2月にその論文が発行されました*が、そこでも患者さんの評価が重視されています。

     通信技術の進歩に加えて、2020年春に始まったCOVID―19のパンデミックによって、会議や情報の伝達方法も大きく変わりました。新聞で得ていた情報はインターネット・ニュースになり、会議はインターネットを利用したリモート会議になりました。伝え方が変わっても、日本アレルギー友の会や「あおぞら」が、これからもアレルギーに関する最新の情報を広く紹介し、患者さんの交流の場となって、患者さんが笑顔を取り戻すサポートを長く続けていかれることを願います。

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