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    第600号

    食物アレルギーをはじめとするアレルギー疾患の克服に向けて

    国立研究開発法人国立成育医療研究センター アレルギーセンター長 大矢 幸弘

     「あおぞら」600号の発行おめでとうございます。

     50年以上にもわたる日本アレルギー友の会の歴史は、まさに日本のアレルギー疾患への取り組みの歴史と軌を一にするものであったかと存じます。

     20世紀後半、先進国では第二次世界大戦後の経済成長に伴い、アレルギー疾患が急増しました。日本の国民1人あたりのGDPが欧米先進国に追いついたのは1970年頃のことで、その頃から日本でもアレルギー疾患の増加が顕在化しています。まさに、半世紀前に本会が発足した頃であります。

     約半世紀前、石坂先生ご夫妻のIgE抗体の発見(1966年)をはじめとして、免疫学の急速な進歩が、アレルギーのメカニズムの解明に貢献してきましたが、医療現場に応用可能な知見の獲得には長い年月を必要としました。とくに食物アレルギーは、根治や予防に向けた介入が成功するようになったのは21世紀に入ってからのことです。アトピー性皮膚炎も、プロアクティブ療法が普及し始めコントロールが良好な患者さんが増えてきたのは最近のことです。最近では、新しい分子標的薬が次々と上梓され、今後、さらに良好な状態の患者さんが増えてくることでしょう。

     思い返せば、私が小児科医としてアレルギー疾患を専門に診療し始めた頃、食物アレルギーが原因でアトピー性皮膚炎になるという一部の小児科医と、そうではないとする皮膚科医の論争が続いていました。21世紀に入り、経皮感作と経口免疫寛容という現象が認知されるようになって、それまでの多くの謎に答えが出て、論争は収束しました。

     乳児のアトピー性皮膚炎患者の血液検査をすると、まだ、本人が食べたことのない鶏卵の特異的IgE抗体が陽性を示すことが多いのはなぜか。かつては、妊娠中や授乳中に母親が食べた鶏卵タンパクが臍帯や母乳を介して移行し感作を受けたのではないか、という考えがありました。それなら、妊娠中や授乳中の母親の卵摂取を禁止すれば良いのではないか、という仮説のもと、欧米で行われた臨床研究の結果は、それらの制限には効果がない、というものでした。

     21世紀の初頭まで、アレルゲンの除去によって予防しようとする考え方が優勢で、2000年に米国小児科学会は、卵、牛乳、魚、ピーナッツ、ナッツ類の摂取開始を遅らせるガイドラインを出しました。しかし、意に反して、それらのアレルギーの増加を招く結果となり、そのガイドラインは2008年に取り下げられました。そのような対策は経口免疫寛容の誘導を阻害し、経皮感作の機会を助長するためだと今では理解できますが、当時は理由もわからず急増する食物アレルギーを何とか予防したいとの必死の思いで対策が立てられたのでした。

     しかし、20世紀の終わり頃には、基礎医学研究者によって、鶏卵タンパクを使って経皮感作を起こすモデルマウスが作成され、アナフィラキシーやぜんそく発作の実験が行われていたのです。ただ、食物アレルギーを研究するモデルマウスではなかったせいか、多くの医師は、食物アレルギーは経口摂取した食物によって感作が起こると信じていました。

     流れが変わるきっかけを作ったのは英国の小児科医であるギデオン・ラック博士でした。彼は出生コホート研究に参加した子どもたちを調べ、乳児期にピーナッツオイルでスキンケアをした子どもたちにピーナッツアレルギー患者が多いことを突き止めました。2003年のことです。人間でも経皮感作によって食物の感作が起こる可能性があることを指摘しました。

     日本では、2009年に茶のしずく事件が発覚し、経皮感作によって食物アレルギーが生じるという現象が社会的事件によって実証されました。

     今後は、経皮感作の防止と経口免疫寛容の誘導により小児の食物アレルギーは減少していくことでしょう。しかし、花粉抗原との交差反応によって起こる成人の食物アレルギーや消化管アレルギーは増え続けることが予想されます。

     アレルギー疾患の増加は、電化や文明化による環境やライフスタイルの変化と密接な関係があります。個別のアレルギー疾患のメカニズムの解明や治療法の開発だけでなく、より広い視野をもち、アレルギー疾患の根治と予防に向けて、私たちと地球との関係を見直すことも必要だと思います。

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